遊び道具にもならなくなった愛ほど
過食して
飾っていた自分の虚ろから逃れられないものになる
鍵穴からその愛を覗いていた私の卑屈の
マリオネットの眼
女は悲しみを遊ぶことを覚えて
夢中になっていく自分を過食するようになっていく
変え難いものにこそ
自ら受容していく純粋が必要なように
意味があるはずの絶望は気づいてしまった時に
消えていく約束で繋がれている事実だけを明かす
親切に
その紐に愛で紡がれた糸は使われていないと
教えてくれるように
譜奏171
遊び道具にもならなくなった愛ほど
過食して
飾っていた自分の虚ろから逃れられないものになる
鍵穴からその愛を覗いていた私の卑屈の
マリオネットの眼
女は悲しみを遊ぶことを覚えて
夢中になっていく自分を過食するようになっていく
変え難いものにこそ
自ら受容していく純粋が必要なように
意味があるはずの絶望は気づいてしまった時に
消えていく約束で繋がれている事実だけを明かす
親切に
その紐に愛で紡がれた糸は使われていないと
教えてくれるように
譜奏171
遠くから聞こえる犬の鳴き声がカラスの声に聞こえて
眠りに落ちていく感覚もなく私は眠り
兆さないまま朝でもない時に私は目を覚ました
紅を引いて着飾ろうとした外に暗がりが広がる
焔の光の波長が短くなって消えていく素振りを見せながら
私の体内の乱数は組み立てられて
形を得た青に向かっていこうとしていく
危ういだけの衝動と自覚
しかし私はこのアンバランスな対を好み
いつも心のどこかで喝采を送ってしまうのだ
年老いて流浪に出ようとする旅芸人のように
虚脱した私はまた感覚もなく落ちていく
そんな私を見届けたように乱数の針は動きを止めていた
カラスの鳴き声ももう聞こえてこなかった
譜奏170
なんとなく空の何かを見上げるように
いつのまにか育った手の届かない胸の願望をみつめると
自分がいかにその願望に甘くて弱いかが分かる
それが十字架のように私を摑まえた憧憬の始まりだ
願望は色彩化した猜疑心で贋作を見抜くように
憧憬の正誤を精密なプロセスで見破ろうとする
光による損傷
異物の付着
顔料の退色
作業を確かめながら怠らない更なる猜疑
そして最後の確認の後に厳重に確かめるのだ
それが決して届かないところにあるというその一点だけを
無為に安心したように
十字架を握ったその手を投げ出して
譜奏169
雨宿りに入った喫茶店で流れてきたリストを聴いて
私は少し意地悪な気持ちになった
今まで全然気にも留めずにいたことだけれど
当時の音楽家たちは他の音楽家と似ることを極端に嫌って
避けるように作品作りをしている
昔の私はそれを自然な個性だと思っていたけれど
どうやら違うようだ
ただせめぎ合っていたのだろうと思う
個であることを主張しその個性を印象付けるために
私に何かを言える資格はないが何だかその精神が平凡に思えて
リストのプレリュードが耳触りになってきた
崇高なるものは崇高を演出しているに過ぎない
不安定な精神に振られている私の解釈は好きな曲にさえ
予測が難しくなっている
譜奏168