2018年1月22日

遊び道具にもならなくなった愛ほど

過食して

飾っていた自分の虚ろから逃れられないものになる

鍵穴からその愛を覗いていた私の卑屈の

マリオネットの眼

女は悲しみを遊ぶことを覚えて

夢中になっていく自分を過食するようになっていく

変え難いものにこそ

自ら受容していく純粋が必要なように

意味があるはずの絶望は気づいてしまった時に

消えていく約束で繋がれている事実だけを明かす

親切に

その紐に愛で紡がれた糸は使われていないと

教えてくれるように

 

譜奏171

2018年1月19日

遠くから聞こえる犬の鳴き声がカラスの声に聞こえて

眠りに落ちていく感覚もなく私は眠り

兆さないまま朝でもない時に私は目を覚ました

紅を引いて着飾ろうとした外に暗がりが広がる

焔の光の波長が短くなって消えていく素振りを見せながら

私の体内の乱数は組み立てられて

形を得た青に向かっていこうとしていく

危ういだけの衝動と自覚

しかし私はこのアンバランスな対を好み

いつも心のどこかで喝采を送ってしまうのだ

年老いて流浪に出ようとする旅芸人のように

虚脱した私はまた感覚もなく落ちていく

そんな私を見届けたように乱数の針は動きを止めていた

カラスの鳴き声ももう聞こえてこなかった

 

譜奏170

2018年1月17日

なんとなく空の何かを見上げるように

いつのまにか育った手の届かない胸の願望をみつめると

自分がいかにその願望に甘くて弱いかが分かる

それが十字架のように私を摑まえた憧憬の始まりだ

願望は色彩化した猜疑心で贋作を見抜くように

憧憬の正誤を精密なプロセスで見破ろうとする

光による損傷

異物の付着

顔料の退色

作業を確かめながら怠らない更なる猜疑

そして最後の確認の後に厳重に確かめるのだ

それが決して届かないところにあるというその一点だけを

無為に安心したように

十字架を握ったその手を投げ出して

 

譜奏169

2018年1月15日

雨宿りに入った喫茶店で流れてきたリストを聴いて

私は少し意地悪な気持ちになった

今まで全然気にも留めずにいたことだけれど

当時の音楽家たちは他の音楽家と似ることを極端に嫌って

避けるように作品作りをしている

昔の私はそれを自然な個性だと思っていたけれど

どうやら違うようだ

ただせめぎ合っていたのだろうと思う

個であることを主張しその個性を印象付けるために

私に何かを言える資格はないが何だかその精神が平凡に思えて

リストのプレリュードが耳触りになってきた

崇高なるものは崇高を演出しているに過ぎない

不安定な精神に振られている私の解釈は好きな曲にさえ

予測が難しくなっている

 

譜奏168