2018年11月30日

答えを出さない南風が何処かに吹いていったら

私を通り過ぎてしまった旅が続くだけなのにと

私は口を尖らせて名もない方角を遠くに見て

そしていつかきっと風の助けがなくても

私は方角など意にも介さずに歩いて行くのだろうと

南風が過ぎていった方角のあたりに目を泳がせていた

人がその場所にいる理由はそこに居場所があるせいだろう

他に必然的と思える理由は思いつかない

風に乗って落ちてくる種が目に浮かんだ

人の人生の終始とひどく似ていると思った

しかし何かが胸で円を描くようにノイズして

私はある希いを思い出していた

私は私の血で真紅の蘭のような色を作り

そして太陽が届かない場所で咲いていたいと思っていたのだと

 

譜奏305

2018年11月28日

一生消えない悪意を感じた日がウィルスになって

人生という肉体を蝕むことが人には往々にして起こる

すべての人にと断定することは無理があると思いながら

断定しても差し支えないという手ごたえを感じていたりする

自身も含めて人が傷ついて苦しむ姿は歓迎できないけれど

そこから生まれてきた実りによって

人は人類は今を勝ち得たと言っても反論は少ないだろうと思う

そう考えたら悩み苦しめることは明らかに

人間が持つキラ星のような才能に違いない

そしてウィルスはその恵みの母体ということになる

進化することだけを動機とした人の遺伝子のテロメアは

浅はかなほどに単純で貪欲なキャラクターを発揮して

私たちに新種のウィルスを投げ込んでくる

疲れるが苦しみこそ未来の糧の種子ということなのだろう

 

譜奏304

2018年11月26日

自分の分身のように思っていたのに

一年に2度開花する青い花の名を忘れて

不道徳な望みを隠し持つようになった私は

私以外のすべてのものを塞いで

穏和な人格を隙なく演じることに腐心していた

人は生まれながらに二重の陰に織られていることを

暗い罪と決めつけるのは怠惰に過ぎるからと

私は私に叱るように話しかけて

何千年も森に迷い込んだままの音の精のように

愁いのようにやさしく風に響いて

時が枯れ落ちた樹葉の海を歩き回り

私の祈りが穏やかに息をしているその場所へと向かう

たとえ私自身がその音に同化していくと

嘆きのような精の聲を聞いていたとしても

 

譜奏303

2018年11月23日

夜に落ちて

眠りから醒めないように踊り続けるダンサーは

死と引き換えにしてもと高揚して

打たれるリズムに鼓動を撃ち合わせるようにぶつけて

やがて死線を追い越そうとするように

ルルベの拍頭を踏みつぶす誘惑を追いかけて

さらに闇に落ちていく夢の運命を知る

神から許された範囲の狂気というものがあるのなら

それは自身の肉体の命という対価で補えるものなのか

そうだとしたらその欲望を機能させているものを

人は運命に飾らないで猜疑していく必要がある

しかしもし神が介在していないとしたら

私もやはり醒めない夜に鼓動して

リズムを撃ち潰す誘惑に抱かれていたい種の人間だと思った

 

譜奏302