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雑踏を過ぎる人々を
予めの気まぐれな春の前触れを
私はカフェの一面窓を射す陽に視界を歪ませながら
朽ちていく者たちを見送るように見ていた
私自身がそこに居ない安堵を
健やかな傲慢と自覚しながら
この世は根の区別されない価値を比較することで
曖昧なIDをカモフラージュしている曲者だ
寄り添うことに意味があるのかと問うことなど
虚ろな歪みのように萎えていく
極端な判断だろうと思う
しかし私の魂の根は確かに遠い喝采を感じ
私の中の異端を愛し始めていくのを
止められないでいた
譜奏55
天気雨の夏の日に空を見て
私は鳥になって空を飛んで
遊んでいたいと思った
やがて夕焼けになり
夜になり
キレイな三日月を見て
私は月になりたいと思っていた
そして願えば私は
鳥にも月にもなれると信じていた
思えばそれは
欲望の始まりだった
今私は鳥の死骸を見ても
月を黒く塗りつぶしても
哀しみの影さえ動かない
譜奏54
人にはスタートを切る季節がある
社会へ夢へ
またはそれを両手に
しかし私はその季節を
耽美の中に漂うようにして過ごした
活気を放つ同世代の群れから外れ
霧の形をした胸の炎と
大気に描がいた幻のような夢を
交互に首を揺らしてみつめていた
選んだ訳ではなく
選ばれたはずでもなく
それが私に与えられたプログラムの
起点に打ち込まれた柔らかな熱の
楔のように
譜奏53
丸く透き通る水晶のような球体を
人間が生まれながらに
与えられていたなら
その中に
生きる答となるべきものは
例えば水中花のように揺らぎ
示されているのだろうか
私はそんな妄想にやさしく
頷いていたかった
カラーローズと同じ数で
反面に佇む14の漂人が
萎えた宿命のように私を
その球体面から
覗き込んでいたから
譜奏52