2017年4月10日

平坦な退屈の中には

それ故の平安があるものと

社会は匂わせ

多くの人はただそれを信仰し

辺りを見回し

日常の煩雑さと向き合い

対極へと置いて生きていく

そう見えて悲しく捻れていた

私の退屈

死のような退屈

そして私は逃げるように

偽りの苦さを求めた

老いを怖れるあまりに追う

タナトスの火のように

 

譜奏47

GYPSY Ann

―――――ねぇ、あなたはみつけた?
―――――あたたかなぬくもりを

―――――やわらかなまなざしを
―――――強く抱きしめる手を

――― ――『GYPSY Ann』より

 

心にフィルムがあるのなら

灼き付けていたはずの

春の花降る優しさに

微睡んでいた

私の無邪気

絶望にも

希望にも

侵されず

一度の抱擁で

私の欲望は

繭人になることを

望んでいたのかも知れないと

今想う私を

知らせる息も遠く

 

譜奏46

2017年4月5日

時の堆積の中にいた人と

心が途切れてしまった午後

私は乱れないリズムを打ちながら

初めてのカフェのテーブルに

手を投げ出した

気がつけば爪床が荒れていた

小さな血液を含んだ皮膚が

接しない点画のように

その色を哀しく見せている

生きるって何故

変質を繰り返すのだろうと思った

時を塞いで息をする力を忘れた

私のこの爪が

与えられた示唆であるかのように

 

譜奏45

2017年4月3日

私が呼んでも

何度呼んでも

答えてくれない私が夢の中にいた

私が差し出した手は大きく

彼女の背は小さかった

忘れてきたのと

私は二度言った

一度目は声にならなかったから

白い霧のような風が吹いて

私の手は小さくなり

彼女の唇は紅く濡れていた

今度はその唇が私を呼んだ

なのに私は急いで

小さくした背を向けていた

 

譜奏44