2017年8月30日

長い昼が暗闇に包まれる頃

パステルカラーのブラウスを着た女性とすれ違った

そのすぐあとで

細めのスーツを着た若いサラリーマンが過ぎていった

信号に遮られて立ち止まったわずかな

何も考えないだけの時間

私は息を深く吸って

浅く吐き出しながら

小さな棘のように感じた違和感を

喧騒のない空に向けていた

信号を渡る羊の群れのような列に紛れて

私は不意な憎しみのように浅い音の先を強めて

ねぇどうしてみんな迷子のような顔になっているのと

物言わぬアスファルトに険しい衝動をぶつけていた

 

譜奏108

2017年8月28日

人は概ね死を語ることを避ける

どんな理由を言ってもそれは死を怖れているからだ

死の恐怖に侵されて生きるのは愚かには違いない

叶うなら人は概ね永遠に生きたいのだから

潮騒の遊ぶ砂浜を

薄い白のワンピースを着て歩いていたら

貝殻で足を傷つけて

私は膝を立てて砂に腰を下ろした

陽射しはカモメが連れ去り空は鈍色に近づいている

私は横たわり波音を並列に聞きながら

こうしていればいつか波が私を拐っていくだろうと思っていた

それが死が欠けることでも満ちることでも

ただ眠るように

たとえ今が夢でも現でも

 

譜奏107

2017年8月25日

乱数のように配置された星座の

屈折した光の残渣

漆黒だけの十二のタトゥー

人々の運命を分け

操りの量子を輝きの糸に撚り

放つかのような

悪魔的な神秘を月下に落とす

無機なるものの連続は

限りある時間を生きる者に感受を与え

感受は行き先を知らず

怠慢した恐れに行き着いていく

両手を空に残渣を受け

額ずかないと私は微笑む

決して運命になど

 

譜奏106

2017年8月23日

大気

人間の暮らしは目に見えないものが支配している

それらはあまりに当たり前過ぎて

人を油断させる

その線上に何らかのロジックが用いられているとしたら

感情というスピンオフは内在にとどまることはなく

飛沫となってその場に刻まれていると考えた方がいい

素敵に怖い話

形有る物しか見ない油断の正体は

きっとぼんやりとした潜在的な恐れなのだ

仕組まれたロジックの意図を計るように

私たちを支配している何者かの息の気配を

人は祈りの心で聞くべきなのかも知れない

 

譜奏105