2019年7月31日

誰にも負けないと頑なに決めて生きていた頃

私はこれという理由もなく頻繁に引っ越しを繰り返していた

ダンボールの半分は開けられていない

落ち着いていく自分に馴染めなかった

敢えて言えばそんなノイズにイラついていたせいなのかもと思う

雨風が孤独を押し込むように聞こえていた夜

ふいにダンボールの中がカビてはいないかと気になって

一番手近なダンボールのガムテープを乱暴に剥がした

見つけた古いアルバムに二つ折りの写真があった

開いてみると亡き父の若かりし頃の姿が写っていた

悲しみで折った記憶のようにその部分だけが真新しく光っていた

父の声が風を破って聞こえたような気がした

ピンクのキャンディを口に入れて目を閉じて7つ数えて目を開いたら

ほお〜ら、いつでもここにいるからな、と父が笑った日のことを

 

譜奏409

2019年7月29日

一つだけ

私は信じていたいことがある

人間も

宇宙の秩序の中で生きていると

そのルールが何によって決められて

どのように構成されて作用を与えているかなど

私にはどうでもいいことだ

ただ願わくばその真実の中で私が生きた人生と

結ばれるべきその証が二つのフープになって

輪舞に舞うように

ギメルの輪の形に重なっていたい

たとえ

その他の

何もかもを失くしていたとしても

 

譜奏408

2019年7月26日

自分に嘘をつかないと人を信じさせることは出来ないの

その感覚を罪と感じているうちはまだ女になってないのよ

原始から女はそうやって生きてきたんだから

でもさ、つまるところ男でしょ、女って

だって男は女にとって未来だもの

ある意味どうだっていいんだよね、過去ってさ、女には

なかなか口に出しては言えないけどね

分かってても卑しい自分は感じたくないのが女だから

あなたも気づく時がくるわよ、なんてね、解ってるのよホントは

でもキレイでいたいよね、訳もなくさ、カラダも心も

今の話とは別物でさ

そう思うとこんがらがっちゃってワタシ

ぜんぜん悲しくないのに涙なんか流れてきたりしてさ

さびしくて自分を殺したくなっちゃうのよ

 

譜奏407

2019年7月24日

穏やかに見えるのに決して抗えない

今過ぎゆくこの時間が

何か憎らしく思えて私は何かの印を残したい衝動にかられて

部屋を見回してまずはカーテンのタッセルを外し

返し刀で古いワンピースをつまんでハサミを入れて

たくさんの瞼柄のような穴を開けたのだけれど

まだまだ物足らない気が治らなくて

昨日作った茹で卵に油性のマジックで

最初は顔のようなモノを書いていたのだけれど

気味の悪い感じになったので黒に赤と青を足してみたら

何かイースターの飾り卵のようになったので

どうせならと思って私は赤で全体を塗り潰していた

明らかな奇行である

マダラな見た目の悪い色具合がそれを物語っていた

祭りの仮装を作り損じたような少しもの悲しい夜だった

 

譜奏406