揺れる
自身ではもう輝けない光のルクスが愛日に留まる川面のように
私が置き去りにした過ぎし日の陽光を遮って
抗いもなく堕とされていくように
私の瞳孔を揺れている
悔いのない人生をと
心に力を込めた日が破れた絵本のように
くすんで色褪せていることを
力尽きたルクスはその残影に執着することで
同調させようとしてくれたのかも知れない
私は私の夢の菌糸でなを蝕まれていく
いつかその光に包まれて溶けていく私の翼を
微笑んで見る私を目撃する
その一瞬を知るまで
譜奏161
揺れる
自身ではもう輝けない光のルクスが愛日に留まる川面のように
私が置き去りにした過ぎし日の陽光を遮って
抗いもなく堕とされていくように
私の瞳孔を揺れている
悔いのない人生をと
心に力を込めた日が破れた絵本のように
くすんで色褪せていることを
力尽きたルクスはその残影に執着することで
同調させようとしてくれたのかも知れない
私は私の夢の菌糸でなを蝕まれていく
いつかその光に包まれて溶けていく私の翼を
微笑んで見る私を目撃する
その一瞬を知るまで
譜奏161
首筋に水が落ちた感触の後
目が覚めた私の視界を埋めたのは
夜明けまではまだ遠い深夜の冷気だった
暗い闇にしか見えない一面の黒にも鋭角に繋ぐ目があり
それが鼓動のように動きながら
闇の濃淡を支配していることに気づいてから
私は夜を怖れなくなり
むしろ棲み人となることを望むようになっていった
私と月との関係は
その鼓動から始まっている
こんな風に目覚めた蒼が呼ぶ夜は
私の女性らしさを奪い
向き合う者を弱めようとする感触を無視して
私はその聖水が乾く夜明けを待つことになる
譜奏160
風も景色もやさしい穏やかな日曜日
お気に入りのカフェのテラスでのんびりと
私は通り過ぎていく人たちを見流していた
白いスニーカーに当たった光が
この穏やかな日のすべてを祝福しているように弾けていく
どんな環境で生まれ育っても人は
最後にはやさしさに行き着く
呼吸するようにそう思えることがうれしかった
しかしそれを知っている私にさえ
やさしさは暗い顔を向けてくる
受け入れることを前提に成り立つものは
例えば娼婦の透けた瞳に美しさを感じた恋のような謎がなければ
その謎がなければ
成立しないのかも知れない
譜奏159
蒼い夜を翔ければ
塞がれた定数のように虹が割れ
祈りは変数で充ちていく
私の虹彩に還ってくるはずの
耀きだけを分裂させて
蒼さえ知らない
その前夜に
私の目の色に合わせたように
変貌していく光を追って
私は意志ある者を待つように
答を持たない夜に身を委ねる
手に堕ちた虹の鍵が
一つだけ叶えてくれると約束した希いを
蒼に犠牲にするために
譜奏158