熱の譜

月の白に醒めない碧い夢

これが最後のように濁るから

一人膝に顔をのせて遠く

夜が枯れていく音を聴いていたの

過ぎていかない悲しみの静かに

奪われていくように

愛の陽炎のように飾られた花は

どうしてその彩りを失くしてまで

さびしそうに咲き乱れているの

何も映さない夜に

わたしを忘れて抱きしめて

消えていく虹でいいの

湖に煌めいて揺らいだ熱を

愛した女優のように

 

譜奏500

2020年2月26日

長い旅の結末はまだわからない

わたしの足がまだ歩くことができるのなら

いつか聴いたあの潮騒の海を

もう一度あの日のように眺めてみたい

わたしの声がまだ歌になるのなら

あの日のように歌っているだろうから

風も地もすべてが愛と知る日まで

どれほどの時が過ぎ去っていったのだろう

そして叶うなら

もしも

わたしの命が

自由に舞うべき蝶だったら

蒼さえ消えて見えない

光ある空へと

 

譜奏499

2020年2月24日

人間生きていて絶望感を味わうことは誰しもが避けたい第一位でしょう

しかし希望という光を見る限りそれは無理な道理というものなのですよ

しかし問題はそこからなんです絶望君主の空恐ろしいところは

初めは心底憎みますよねその陥ってしまった絶望感そのものを

しかし人はだんだんと何故だか慣れていってしまうものなんです

そしてあろう事かやがてはその絶望に頼るようになっていくのです

勿論本人に自覚はなく希望という存在を忘れないための作用なんですが

信じられますか?この事実そしてはっと気づきませんか皆さん

分からないですか?ダメですねそんな調子じゃ救いようもないですね

実はですね希望と絶望ってまごう事なき共犯者ってヤツなんですよ

何せ私がお話ししているのですから間違いなどありません

だから断じて同化してはいけませんよとだけ教えてあげておきましょう

そこまで言い切るあなたはいったい誰なんだと聞きたいのでしょうが

いえいえ何を聞くのですかそれだけは断じて明かす訳には参りませんよ

 

譜奏498

2020年2月21日

気になって忘れられないで苦しむ人には忘れる力を

忘れてはいけないことを忘れてしまう人には忘れない力を

日々が自分を否定してくると感じる人には感じない力を

全てのことをただ肯定してしまう人には陰を見る力を

考えることに頼るだけの人には考えない力を

気分次第で動いてしまう考えない人には痛みを与えて考える力を

バランス良く強くなるために。

人の心の痛みに同化しやすい人には適度な不感の力を

人の痛みに無関心でいられる人には適度に作用する不運の力を

自信なく気遅れがちな人には並んでいける程度の鈍感なる力を

自身を過剰に顕示する人には恥によって打たれる作用の力を

愛を懸命にただひたすらに求めて生きる人には私欲を問う力を

愛を信じず享楽だけを追って生きる人には孤独を問う力を

バランス良く弱くなるために。

 

譜奏497