2017年6月30日

人は精神を成長させて

広い心を持ち

思いやりを示し

やがては慈愛を放つ者にと希う

社会の良識もそして

潜在的におそらく当人も

しかし現実の敵は強敵だ

それはもちろん憎しみ

憎しみはしばしば哲学者のように言う

精一杯積み上げた気力が萎えそうな時に優しく

荒みつつある自分を知る時に労わりを見せながら

何も苦しむことはないのよ

だから元に戻してあげたでしょ

 

譜奏82

2017年6月28日

柔らかな陽射しが苦悶して

破れていく稜線に目を背けた午後

私の澱を揺らした衝動は

時の切り絵を刻むような

冬去りの風を

幼い子のように

破線の縁に追いやっていた

私はかすかな記憶の中の花々を

胸に挿していた私を

悪意のまま絵の欠片に写し

風音の消えていく響きに叫ぶように

唇と息の嗚咽を圧えようと身構えた

私はただ自失のように背いていたかった

破線を滲ませる色彩の彩りそのものに

 

譜奏81

2017年6月26日

捨てられていた人形は

雨に打たれている姿に憐れみを覚えた相手が

聞きたいと思うことを言って

聞いた人を思い通りに動かす

邪悪魔だった

雨は包んでいる毛をみすぼらしくさせて

優しい心を傷つけるには

一番の方法だと邪悪は知っている

優しい心は聞く

寒いでしょ?どこからきたの?と

嗤うと悲しい顔になる人形は

使い慣れたいつもの絶望で答える

今あなたの心からよと

雨で刺すように

 

譜奏80

2017年6月23日

過ぎてきた時間は拒めない

日常音に紛れていないといつまでも

遠い潮騒のように私の耳にまとわりつく

未来との距離も私には同じようにしか思えなかった

足に海水の感触があるまで

ただ歩き続ける

わずかな波音の気配を聴き分けようとしながら

しかし歩いている時の私はいつも

目が塞がれて裸足なのだ

時の縄に引かれて

どんなに心を揺さぶられても抗う力を持たない

嘘のない者のように

帰るべき潮騒に

還る者のように

 

譜奏79