2017年6月21日

物心がついて

私の初めての違和感は

大人になったら

立派な人になることが一番と

多くの人が思っているということを知った時だった

成績も学校も職業も容姿も運も

比べられる

結果という鏡の前で

当たり前のように

しかしそれは正しくても単細胞でも

私にとってはどちらでもいいことだった

私は動物的に分かっていたから

私にとって必要な人と言えるのは

迷いを分かち合える人だけだということを

 

譜奏78

2017年6月19日

不良少女がいた

中学生の時から家出して

盛り場の海に溺れているような女の子だった

私とは同じ学校だったが話したことはなかった

しかしその特徴的な顔は私の記憶に刻まれていた

一言で言えば

あまりに淋しそうな姿をしていたからだ

十数年が過ぎた平日の午後

故郷から離れた都会で彼女と出くわした

彼女は小さな子供を連れて

子供は赤い靴をはいて黄色の風船を持っていた

私は涙が溢れたまま泣いていた

膝を下げて微笑む彼女の横顔が

あまりに美しかったから

 

譜奏77

2017年6月16日

春風の悪戯か

大気に漂う死種の気配に顔を背けて

私は以前は異物としか感じなかった私自身の中の

平安という認識の揺れに心を苛つかせていた

訳も兆しもなくただ疑ったのだ

何よりも私は時の退廃を避け

その退屈を嫌ってきた

退廃は退屈を食べそして

蠢くようにその細胞を増殖していく ウィルスそのものなのだからと

しかし私は平安を退廃と結び付けた経過を覚えてはいなかった

苛立ちは一つの結論はまたその経過でしかないという恐れからきているのかも知れない

天声の如く下りてくる人生の示唆を鵜呑みにはできないと

示唆そのものが退廃の中で育つ

ウィルスであるのかも知れないと

私は感じていた

 

譜奏76

2017年6月14日

気にも留めなかった冬が過ぎた頃

私はいつしか

珈琲を飲む習慣がついている自分に気がついていた

小さな頃は甘い物ばかりを母にねだる子供だったのに

犯人は判っていた

頑なな背で急ぎ足で生きていた私をあざ笑うように

ぼそぼそと

路地の日なたで寝転がっているネコのような不思議が

私の洞に飄々と入り込んできていたからだ

そのネコは胃潰瘍になっているのに

日に何度も喫茶店に入って珈琲を飲みぼそぼそとしゃべる

私が席を立てないことばかりを話して

のろく動いて珈琲の香りを時に同調させて

私がそこにいることさえ気にも留めないように

 

譜奏75