気にも留めなかった冬が過ぎた頃
私はいつしか
珈琲を飲む習慣がついている自分に気がついていた
小さな頃は甘い物ばかりを母にねだる子供だったのに
犯人は判っていた
頑なな背で急ぎ足で生きていた私をあざ笑うように
ぼそぼそと
路地の日なたで寝転がっているネコのような不思議が
私の洞に飄々と入り込んできていたからだ
そのネコは胃潰瘍になっているのに
日に何度も喫茶店に入って珈琲を飲みぼそぼそとしゃべる
私が席を立てないことばかりを話して
のろく動いて珈琲の香りを時に同調させて
私がそこにいることさえ気にも留めないように
譜奏75