2018年5月30日

肩に薄い青の布を下げて北側に向いて歩いた時

あぁ私はもう二度と

この色を首に巻くことはないと思っていた

私には結局

偏角にしか意識が向かなかった実感があり

いつの時も

磁北にしか位置していない私自身への苛立ちがあった

私は鈍感な日時計のようだった

その下で紫菊の花が咲いていた

きっとその朝には寂しさに凍えていた

私が体温を守ってあげたら

そしてあなたの体液に均質してあげたら

私は偏角を忘れることができるのだろうかと思った

私の運命はまたお腹を空かしているようだ

 

譜奏226

2018年5月28日

路上で歌う若い女性を通り過ぎて

この自由さが今の時代の平和さの一片なのだろうと

私は後ろに下がっていく電子音から離れるように

信号に向かって足早に歩いていた

音楽のリズムの多くは

鎖で片足をつながれた奴隷たちが

海を渡らせてそして進化させてきたものだ

奴隷たちの絶望は歌うしかなかった

今路上に落ちている絶望はその一片を聞くものなのだろうか

不意に揺れることを忘れた陽炎のように信号が変わり

結婚するか修道院に入るかしかなかった時代の女たちが

宵早の門を閉じる姿が滲んだ絵のように見えた気がした

迷い込んだ透過光が哀しむように白く抜けて

そのまま自らの春光を弱めていくように

 

譜奏225

2018年5月25日

5度低く

休符から始まるビオラのD線の上で

しなやかに氷面を削るように

ヴァイオリンのEが滑る

無機な単音が連なっているだけの譜が

それ故に意思を持つフレーズという化身は

一定の扇動の中で縛られながらも

制限されることなく横に伸びて

血縁を途絶えるように蠢いていく

鼓動は与えられるだけではなく

意志ある者の力で生み出すことができるのだ

命は全ての譜線を引く

朽ちるという単純な運命に見せかけたトリックを

休符に笑って見破りさえすれば

 

譜奏224

2018年5月23日

やさしい人になりたいと

思った後でそのために

強い人にならなければと

目を閉じていたら

人間は

最後には祈る生き物なのだと感じ

祈る相手を初めて探して見つからなくて

私は説明のできない涙を流した

行き先のないままにやさしさの養分を疑い

強さの単位をつかめず渇こうとしていたら

前がまったく見えなくなるほどの雨が

やさしい故意のように私の視界を潰して

祈りを思い出したように

私は敵意の熱に任せて目を見開いていた

 

譜奏223