2018年11月21日

少し油断すると繰られるように出来ていそうな

社会という満員箱の中で

自分の素直な声を聞くことは大切な心がけだと思ったら

その声は何によって創られているのかと気になりだして

私は目を閉じて自分の胸を歩いてみたけれど

胸は今違うことに捕らわれていて関心が無さそうだった

目を開けると日常の雑想が騒ぎ出す

何も考えず繰られて生きていくとどんな風になるのだろうと思う

あるいは人にはそのほうが自然なことなのかもとも思ったりする

しかし私の心は聞きたい時にはうるさそうにして

話したい時には責め口調でこんな風に私に言ってくる

あなたは自分の意思のように日々を行なっているけれど

自分がどこにいたかは覚えているけれど

今自分がどこにいるのかを私に示したことはないでしょと

 

譜奏301

2018年11月19日

秋が数日でいなくなって

突然冬の風を感じた遅い朝

バス停に坐っている淋しい人を見かけました

私は失礼のないようにその人を見ないように通り過ぎて

牛乳と果物を買ってまたバス停の近くにきた時

その人がいなければいいのにと思っていました

以前同じようなことで苦い思いになったことがあるからです

でもそう思った時にはもう彼の姿が見えてきていました

ちょうどバスが着いて誰も降りなくて

バスは開けた扉をすぐに閉めながら走り出した時でした

生きていたら私の父くらいの人でした

動かないままの背中は丸く淋しいままでした

こんなに寒いのにと思いながら私は通り過ぎました

そしてしばらく歩いてまた私は振り返ってしまっていました

 

譜奏300

2018年11月16日

女性の心の形が悲しい器に思える時

晩課に集まる人びとの影になって

子を捨てる母親のように紛れていたいと

私は動かない時間を恨めしく思いながら

ぶつけるようにして顔を洗った

女性という性は何かを待つように造られていて

自分という意思が表面に表れるのは

その何かの後か線上のプロセスの点でのことでしかないのなら

私が今感じている不満は成立していない

ではその器は何かを選択して受け入れているのだろうか

そんなはずはないと私は鏡に向かって言ってみる

開けられた蛇口から生き物のような水線が飛び出していた

私は少し恐くなってタオルを被せて水を止めた

鏡に映る自分が静止していては形さえない器のように見えていた

 

譜奏299

2018年11月14日

哀しみの身代わりを探していたら

捧げるものが失くなっていることを知り

許し合える人を嫉む自分に行き着く

私を高揚させるだけの罠と知りながら

指を組んで形を整えると

輪郭だけの月はいっそう妖しく

身体が凍っていくような深い眠りに落ちて

明日の朝まで

自分の名さえ思い出せなくなる自分でいたいと

空に祈りそうな私を楽しむように

嗤うようにも

憐れんでいるようにも

微笑んでいるようにも

私をみつめ返してくるだけだった

 

譜奏298