2018年11月12日

カラスが死んでいた公園道を

青のジョギングウェアが過ぎていった後

大粒の雨が降り出して

ホームレスのような老人が現れて

素手でカラスを埋め出した

子供が恐がるからだと一人言を言っていたが

どこかからやってきたお巡りさんに手を引かれて

老人はどこかに連れていかれてしまった

老人の手がひどく土で汚れていたのが見えた

隣の席にいた2人連れの女性のどちらかが

かわいそうにね、と言ってマグカップを持ち上げて

もう1人が場を和ませるように笑っていた

ミントティーの香りがしていた

寂しいパントマイムのような午後だった

 

譜奏297

2018年11月9日

人として一番残酷なこと

それは長い時間を欺いて精神を開かないままに

その時間を共依存として費やしてしまうことだろう

私の中では一番の重罪と感じている

しかし

生きていく心というのは一理に収まらず複雑なものだ

人間の思考など一形の偏愛に過ぎないと思えてしまえば

決して踏み外してはいけないと決めていた一線があっても

私が私の衝動熱に焼かれてしまうだけで

それはむしろはっきりとした願望に変わることもあり

やがては私の熱量の河の流れに呑み込まれてしまうだろう

そして残酷であるがゆえの価値ということも否定できなくなる

私が忌み嫌い最も虚しいと思ってきたことを

あなたも同じようなことができるくせにと囁く私がいるのだ

 

譜奏296

2018年11月7日

人生が細長い紙に印字されて

いつでもプリント出来るようなものであったら

その紙に印字された出来事の全てを

愛しく思う私でいたいと思いながら

ハサミで切り落としたいいくつかの思い出が

そんな気持ちを一瞬にして壊してしまう夜

忘れるという塗り潰す作業がやはり人には必要なのかと

私は弱い自分を睨むようにして

何かの後催眠のように

見つけた開けられていない古い手紙を破って

どうせならと思いハサミで小さく刻んで

紙吹雪のようになるように強く

私を棄てるように強く

部屋の天井に向かって腕を振り投げた

 

譜奏295

2018年11月5日

冷蔵庫の隅に食べ忘れていた林檎を見つけ

捨てるしかないと思ったけれど

その萎みかたに申し訳なさを覚えて

私は銀のボウルに水を入れてその林檎をやさしく落とした

林檎は水分を失くして痩せていたのだろう

何度落としても沈むことはなかった

私は水道の蛇口を力いっぱいに開いて

水流に迷惑そうに遊ばれるその様子を

たださびしい気分で眺めていた

愛に似てる

私はそう思っているようだった

最初に沈んでくれればよかったのにとも思っていた

愛は何かで相殺することなど出来ないと

知っているはずだったから

 

譜奏294