2018年1月12日

人には様々な苦しみがある

感情を封じて描かれた雑誌のイラストの細い息のような線を

私は寂しい気持ちで何度か目になぞっていた

その時にふと思った

幸福や満足していそうな表情には

残るものがないのに

何故寂しいものにはテイストのようなものがあるのだろうと

哀しみも同じだ

この線は私にそういう感性みたいなものを伝えている

それらはどれも非建設的で

最後には苦しみにしか行き着かないというのに

善を行なえど罪無き者はなしという聖句が頭をよぎる

生きるということは満たされることを目的にしてはいないのか

そう思えば見事なほどに辻褄が合ってしまう気がして

私は駅のゴミ籠にゴミのように雑誌を投げ捨てた

 

譜奏167

2018年1月10日

人は愛より罪を感じる力の方が強い

星が導くものを抱え込んで従わない光束に

合意したように生きた自分が重なると

それははっきりと輪郭を持つ生き物になる

それが私の影に重なろうとする日

私は潜在意識のように表れた光束を

受け入れ

胸に彫る刃を探すように

自分の心の周りをまさぐった

手に触れる物を必然に委ねるために

暗黙に合意する者のように

たとえそうでなくても

そうであったとしても

ただそれだけでしかなくても

 

譜奏166

2018年1月8日

思い通りにならない火が水に歪んで見えるように

壊れていても存在価値のある感情への尊厳が

私の胸をいっぱいに占める夜がある

そしてありのままの自分が暴走する自分を

私はじっと耐えるようにみつめるだけになっていく

五線のない譜面を容赦なく動き

苦しそうに吐き出されては刻まれる熱の痕

肉体の主さえ尊重しない

その譜が火の影のように暴れるのは

私に運命付けられた狂気の啓示なのだろうと言い聞かせながら

やがて疲れたように落ちて残骸になる一瞬を

私は苦しみの中で感じ取る

その空間に起こるすべての出来事を

火の器に揺れるようにみつめながら

 

譜奏165

2018年1月5日

いつか見た青割れの黄昏れが注ぐように教えてくれたように

私は無邪気に遊ぶ子供たちに

やさしく微笑む人でいたかっただけだった

置き去りにする理由などなかった

雑踏を避けた裏通りの静寂で

すれ違いざまに聖書を這う虫のように動いたら

文字が罪のような韻律音を出して苦しむから

私は静寂を怖れるようになったのに

その後誘惑は二度と私の前に現れなかった

何故あんな衝動が起きたのだろうと思ったこともあった

しかし私は本当は知っていた

癪に触ったのだ

私の悲しみを作業のように刻んでいるその音の主の

やさしいだけの平和な笑顔が

 

譜奏164