2017年11月6日

私が産まれた朝から私の胸に

デッサンのように刻まれていた私の嗜好が

鮮やかな痣になって浮き上がってきた夜を

抜け目の無い月光が泳ぐように盗み見していたことを

私は密かな楽しみと感じて無視を通してきた

伝え合うことなど私たちには不要だと

お互いを牽制してきたのだ

自分を唯一とする自愛者の孤独は

同じ孤独者の高揚さえ拒む

だから私の痣は一人きりの闇にだけ姿を現して

月下に構図を晒すのだ

満ち欠けの斜光に美醜を這わせながら

私と同時に朽ちる点描のその一点を

永遠に円舞するかのように

 

譜奏137

2017年11月3日

爪が割れた

大切なものをすべて奪っていく雨音のように

血に軋みながら

悲しみはいつも寡黙で

気配だけを胸に兆しながら

冷んやりとした陰のように

雨の日を待つ

混ざり合えない堆積と知りながら

潰れていく雨粒に

容赦なく溶け込もうとするように

何かの藍のような人間の感情というものが

人にとっての異物なのかも知れないと言ってしまったから

私の悲しみの息は乱れて

音の死ぬ息とリズムを合わし出している

 

譜奏136

2017年11月1日

原始

人類は知恵の糧となるべき物を光り輝く物体に求めた

太陽によって生かされることを

おそらく本能的に感じとっていたのだろう

土は砂は陰しか見せず

水面は姿形を映した

太陽を畏怖し水を恵みと知る人類の

遺伝子の始まりだったに違いない

水鏡の淡い光が日常の中で割れる時

私はその瞬間を見ない

ただ目を塞ぐのだ

思い当たらない昨日までの罪を

予め用意された明日からの罪を

謂れなく畏怖するように

 

譜奏135

2017年10月30日

夜をみつめる時

自覚しない厄介な自分が現れて

人の世界の言葉の不足を嗤う

想い

愛情

そして次は遥かに魂なのかと

嗤う

私がある歌を歌う時

自覚してきた自分に向かって

その粗い空間のような隙間には

韻律という磁波が途切れない波のように

平面を継ぎ続けていると感じると

今度は夜が私をみつめて

夜明けは苦しいのと言い出すのだ

 

譜奏134