2017年11月15日

目が覚めたら

カーテンから夏の夕焼けの切れ端が見えていた

浅い夢は悪い夢を見る巣窟だと知っていても

自力では抗えもしない

人は意味を求める生き物だ

眠っている時にこんなに苦しむ夢に

何かの意味が与えられているのかはいつか知りたい

これまでに私は色の無い砂浜や都会を歩いていたりしていた

泡の分だけ歌いながら湖に沈んでいくこともあった

廃坑の鉱山の岩場を裸足で歩いて泣いていたりもしていた

私の見る夢には私しか出てこない

私は怖れているのかもしれないと思った

愛を得ることや失なうことを

そのどちらにもある哀しみを受け入れることを

譜奏141

2017年11月13日

宙から空に落ちていくように

見知らぬ街の遠くから聞こえたカリヨンの音が

風追う旅人の背を反響板のように響かせた夜

私の胸に迷い落ちてきた単音が弾くように私を

その夜そのものを

共鳴の一体にして私の身体に消えていった

私は反射的に魂を屈めて身構える

どんな運命であれ運命など

初見はいつも異物でしかないのだから

夢に引かれるように共鳴は眠りに向かっていく

いつしか櫛歯のようになった私と単音が意識し合うその場所まで

ただ平安に

そして奏でられるようなカリヨンの弾かれた一音を

私は空を破れない風のように聴いていたのだ

 

譜奏140

2017年11月10日

飾ることがないその人は

水彩画の美しさは水と絵の具は拒み合うものだから

境界線のように最後にその痕を遺すから

人の目には融合して見えるけれど

実はその形はそれぞれの痣なのかもしれないと

汚れた指を見せながらアイスコーヒーを吸っていた

拒み合ってるってちょっと不思議な感じ方ですねと私が聞くと

そうだね、でも美しいものはだいたいそういう韻律を持ってるよと

日向ぼっこをしている猫の鳴き声のように言うのだ

とても新鮮な考え方だなと思ってその韻律ってどういう感じですかと喉まで言葉が出かかった時

私はしゃっくりのように大笑いをしてしまった

猫が大あくびをしたのだ

まるでお気に入りの屋根で半目で寝転がっているように

 

譜奏139

2017年11月8日

満月だと聞いていた夜

急な大雨に降られてタクシーの座席で目を閉じた

吐く息を1として

28数えたところでブレーキの反動を感じる

動き出した気配から71のところで身体が右に振られたあと

今度はウィンドウの方に首を振られる

そしてそのまま

私は冷たいガラスに頭をつけて身体の芯を凭れさせていた

黒い布を目に被せたように私の視界は音だけになっていく

怯えの構図はきっとこのような仕組みで造られていて

色彩さえ与えられていないのだろうと思った

気がつくと数が音に消えている

敬意を払えないと知っている私の一日を

私自身が忘れていくように

 

譜奏138