2017年11月24日

どう足掻いても

時間の血清は

過去にはない

その痛みがあったのだろう

私の夢の堆積で組成された仮想の彼女は

悔いを濾過してシグナルを伝えてくるキャストとして

ある意味私に最も近い存在だった

白日の微睡みに突如として現れた彼女が

もうこの堆積の養分は石化していくだけだと私に告げて

最後の愛情のように私をみつめた時

永遠の秘密を脳のシナプスの中に閉じ込めたような

あまりに美しいガラスカットの目に怯む私に

声もなく唇を動かして神様の顔を見たと

彼女は確かにそう言って消えていった

 

譜奏145

2017年11月22日

直感には理由がある

そしてその理由は突き止める必要がない

自分の意志では動かせない筋肉のようなものなのだから

感じるというこの素晴らしい機能は

生物にとって人にとって最も重要な生命線だ

だからここまでで良い

本来は

言葉など持たなくても

幼い憧れに心焦がして鏡に向かって吐き出した言葉が

蜘蛛の糸のように変質したあの日

あの日に一度だけした赤いマニキュア

さびしさの重さに耐えきれないように床に落ちて

その紅がある意志のように何かを探すように

今もまだ私の胸に棲みついている

 

譜奏144

2017年11月20日

青い音

その表面は絹というよりベルベットのように見える

背景の黒闇がむしろ絹のようだ

私はその青を追い虹彩で触る

ストリングスがしなやかに伸びて

静寂を布のように巻き付けてきて

私に戯れつくように

近づいたり離れたりしている

私と共感覚の音との繋がりは

悲しみの淵で怯えていた壊れた夜から始まっていた

何もかもを赦すやさしい旋律のようにそんな夜は続いていた

羽化したように現れてきた私の意思が

払うようにその布を掴み捨てようとした

白い夜明けを見るまでは

 

譜奏143

2017年11月17日

人の心に宇宙があるのなら

その成層圏を分かつのは

社会生活で得たすべてのロジックの理そのものだ

調和と円滑

情緒の噛み合わせとそのタイミング

言葉にならないその他の理という軟体からはぐれたもの

人の命が発する微毒

のようなもの

その全て

それらは制限する

その組み合わせ以外のすべてのものを

その結果人の心は強ばり自由な空間が軋んでいくのだ

ロジックは語りすぎる

その理こそ人には猛毒に違いない

 

譜奏142