違う、と思って気づかないフリをしていたが
声でしょ、声が違うと思ってるんでしょ、と目を覗き込んできた
声帯にステロイドが入ってるの
手術したのよ、と恋中毒の女はさばさばと言った
どうして、と聞きたかったが聞くほどの関係でもなかった
それでその話は終わって会わなかった数年間の雑談をした
黒髪がロングのチェスナットブラウンになり
リップしかつけなかった唇は艶やかなグロスピンクになっていた
それに合わせたアイボリーに近いマニキュア
服装も含めて全体の印象が性人形化しているように見えた
別れ際女は私の目に十本の指を開いてまたお茶しようねと言って
両親がね、もう死んじゃってね、もうわたしのこと知ってる人がいないの
と後ろ歩きしながら黒髪の頃のようにあどけなく手を振った
私は熱くなっていく胸に気づかないようにただ手を振り返しただけだった
譜奏468