2018年1月17日

なんとなく空の何かを見上げるように

いつのまにか育った手の届かない胸の願望をみつめると

自分がいかにその願望に甘くて弱いかが分かる

それが十字架のように私を摑まえた憧憬の始まりだ

願望は色彩化した猜疑心で贋作を見抜くように

憧憬の正誤を精密なプロセスで見破ろうとする

光による損傷

異物の付着

顔料の退色

作業を確かめながら怠らない更なる猜疑

そして最後の確認の後に厳重に確かめるのだ

それが決して届かないところにあるというその一点だけを

無為に安心したように

十字架を握ったその手を投げ出して

 

譜奏169

2018年1月15日

雨宿りに入った喫茶店で流れてきたリストを聴いて

私は少し意地悪な気持ちになった

今まで全然気にも留めずにいたことだけれど

当時の音楽家たちは他の音楽家と似ることを極端に嫌って

避けるように作品作りをしている

昔の私はそれを自然な個性だと思っていたけれど

どうやら違うようだ

ただせめぎ合っていたのだろうと思う

個であることを主張しその個性を印象付けるために

私に何かを言える資格はないが何だかその精神が平凡に思えて

リストのプレリュードが耳触りになってきた

崇高なるものは崇高を演出しているに過ぎない

不安定な精神に振られている私の解釈は好きな曲にさえ

予測が難しくなっている

 

譜奏168

2018年1月12日

人には様々な苦しみがある

感情を封じて描かれた雑誌のイラストの細い息のような線を

私は寂しい気持ちで何度か目になぞっていた

その時にふと思った

幸福や満足していそうな表情には

残るものがないのに

何故寂しいものにはテイストのようなものがあるのだろうと

哀しみも同じだ

この線は私にそういう感性みたいなものを伝えている

それらはどれも非建設的で

最後には苦しみにしか行き着かないというのに

善を行なえど罪無き者はなしという聖句が頭をよぎる

生きるということは満たされることを目的にしてはいないのか

そう思えば見事なほどに辻褄が合ってしまう気がして

私は駅のゴミ籠にゴミのように雑誌を投げ捨てた

 

譜奏167

2018年1月10日

人は愛より罪を感じる力の方が強い

星が導くものを抱え込んで従わない光束に

合意したように生きた自分が重なると

それははっきりと輪郭を持つ生き物になる

それが私の影に重なろうとする日

私は潜在意識のように表れた光束を

受け入れ

胸に彫る刃を探すように

自分の心の周りをまさぐった

手に触れる物を必然に委ねるために

暗黙に合意する者のように

たとえそうでなくても

そうであったとしても

ただそれだけでしかなくても

 

譜奏166