2018年1月8日

思い通りにならない火が水に歪んで見えるように

壊れていても存在価値のある感情への尊厳が

私の胸をいっぱいに占める夜がある

そしてありのままの自分が暴走する自分を

私はじっと耐えるようにみつめるだけになっていく

五線のない譜面を容赦なく動き

苦しそうに吐き出されては刻まれる熱の痕

肉体の主さえ尊重しない

その譜が火の影のように暴れるのは

私に運命付けられた狂気の啓示なのだろうと言い聞かせながら

やがて疲れたように落ちて残骸になる一瞬を

私は苦しみの中で感じ取る

その空間に起こるすべての出来事を

火の器に揺れるようにみつめながら

 

譜奏165

2018年1月5日

いつか見た青割れの黄昏れが注ぐように教えてくれたように

私は無邪気に遊ぶ子供たちに

やさしく微笑む人でいたかっただけだった

置き去りにする理由などなかった

雑踏を避けた裏通りの静寂で

すれ違いざまに聖書を這う虫のように動いたら

文字が罪のような韻律音を出して苦しむから

私は静寂を怖れるようになったのに

その後誘惑は二度と私の前に現れなかった

何故あんな衝動が起きたのだろうと思ったこともあった

しかし私は本当は知っていた

癪に触ったのだ

私の悲しみを作業のように刻んでいるその音の主の

やさしいだけの平和な笑顔が

 

譜奏164

2018年1月3日

時間が確かに過ぎていったことを

証しし得る者はいない

記憶の堆積と数字の化身とただ彷徨うだけの感情

そしてそのすべての残骸

人は辿ったことを表わす力を持たない生物なのだ

閉じようとした祈りの息が落ちるはずのこの手に

空間が曖昧な歪みを見せた後

私は同じ波長を探すようにつぶやく

私は私の命が尽きたら

砂浜に一重に消える波になりたいと思っていたと

そしてやがて夜を見上げる潮汐に重なって

背を向けた月から遠ざかっていこうと

私は悪意のように

希っていたのだと

 

譜奏163

2018年1月1日

何かに迷いながら雨の降る日がくると

誰かが後ろから手を被せるように

私の耳鳴りが始まる

静止画面に止められても

時間が止まる訳でもないのにと

私の中の傍観者が諭すように誰かに話しかける

その敵意のない声さえ

私には聞き取りにくいものになっている

心に完全受容するHzがあるのなら

私は立ち止まらない確かなリズムを踏み出して

或いは能動的に駆け出していくのかも知れない

その能動がフィルムの一コマでしかないと

どこかで感じていたとしても

その道が獣さえ行かぬ迷い道だと気づいていても

 

譜奏162