2018年3月14日

ふと気分がしなやかな夜

人は過ちもあった過ぎた日を振り返り思う

自分は精一杯生きてきたのだろうかと

少しばかり正しいとばかりは言えなくとも

自分なりには懸命に生きてきたはずだと

そしてそれは概ね正しくその人は賢明な人だと言える

何より明日に前向きな姿勢がその人の基本にあるからだ

私の周りにいるそういう人は振る舞いも柔らかく

自制された忍耐強さを持つ愛すべき人達だ

しかし私はその人達と話していると

いつも疎外されていく自分しか感じないで生きてきた

何故だろうと思った時期もあったが理由ははっきりしている

私は振り返ってしまえば未来という獣が

自分の後ろに立っている気がしてならなかったのだ

 

譜奏193

2018年3月12日

夜の風を怖がったようなネコが

人を避けて路地に消えていく時に

私の目と鉢合わせになって挑むように見返していた

私の優しさはいつものように表に出ず

その小さな体を案じているのにと思っただけだった

私の心の鏡は何かの意図のように私を曖昧にしか写さない

そのフラストレーションに原罪の無形な気配が膨らむ

人間は天使にも悪魔にもなり切れないなんて軽口を言って

そんな大人好みの光沢をしたファンタジーに飛び込んで

そんなイラストの中の私になって

神さまに一つだけ希いを言えるなら

私の中でいつまでも消えないいくつかの時間に

自由に催眠術をかけることの出来る力をと

今夜私はきっとそう言うだろう

 

譜奏192

2018年3月9日

今日

都会では珍しい白い鳥が飛んでいるのを見た

私はその名前を知らない

そう思った時

その回路の先に懐かしい感情を置き忘れていたことを思い出した

ある日初めて夢というオーロラを見上げながら

私が感じていたのは希望というものではなかった

ただ私はこの夢が何の痕跡もなく消える日のことを恐れたのだ

得ることより失うことに過敏な私を嗤うように

根を探れない暗室のような部屋に切れ落ちた音が

無地の栽落のように反応して

私自身さえ写せない感光板のように

不機嫌な銀溶液に小さく

悲しいリズムのように揺れていた

 

譜奏191

2018年3月7日

太陽のフレアに気づいたように

不規則な煌めきの中で鼓動を過り

私の色を変えていく

光の波長

その輪郭線が暗がりに現れて

ジャズに心預けるphraseに

溺れるように

アルペジオを舐める指がchordを這っていく

命という重力

その基点を

どうして辿れると信じたのだろう

本当の私など

誰も

私も知らない

 

譜奏190