2020年1月3日

願いの生贄に

永久に視覚を失くす毒と

永久に聴覚を殺す毒のどちらかを選ばなくてはいけないとしたらと

私は蒼の夜をみつめながら自分に問いかけていた

そしてその問いに微睡んだ夢に火をつけた

夢のスクリーンはあっという間に炎に落ちて

私は確認をなぞるように確信して俄かに笑った

私のこの悪魔的な熱は一瞬の集結で火に変わることを

映像が表してくれたことがうれしくてたまらなかったからだ

願いは自身の衝動的な幸福にしか向かわない

その覚悟の無さが悪魔の最も得意とする疑似餌だとも知らずに

真実など無価値なただの出来事に過ぎない

私は願いを捨てて音楽に溺れて生き急ぐと蒼に向かってつぶやいていた

確かな新しい場所へ導かれていく力のようなものを感じていたからだ

 

譜奏476

2020年1月1日

おまえも吸ってみろよと言われて吸うというより吹くようにしてみて

今では完全系のヘビースモーカーの私

初めてのオトコにただ嫌われたくなかっただけだったのに

やさしく誘われると断れないのは母からの遺伝に違いない

そんな母も散々な人生を送って枯れそうな草みたいになって死んでいった

私にはそれを告げる友人もいなかったから泣かなかったの

一つでも自分の何かに自信?みたいなものがあれば

母娘共々こんな風になってないのかもしれないと思って笑うだけよ

でもどうしようもない、結局私はただ待つだけの女なの何かを

貴女はお酒もタバコもやらないのね

何かそれだけですごく清潔感を感じるのは自分と比べたせいよね

でも私、もう一回あの女から生まれてきたら同じだわきっと

行きずりの性でたまたまタンポポの種みたいに命になっただけで

何も無いもの私には

 

譜奏475

2019年12月30日

夜の闇に目を開けて天井の四角をめまぐるしく順に見て

止まらない空想を現実に近づけるほどに計画を立てて

空想が現実のような光景になって胸に落ちると

やっと安心して思い出したように眠るような思春期を私は過ごした

ある時は大劇場のバレリーナとして

ある時はスポットライトの中のヴァイリニストとして

今思えば本当に変わった女の子だったと言うしかない

誰しもが一度は夢見る光景を私は現実としてしか考えられなかったのだ

単に私の中の振り子が極端に偏っていただけなのかもしれないけれど

あれから数十年

驚くことに私の空想の振り子はさらに偏って生きる中心核に座している

今日はそんな自分が可笑しくて私はただ笑っていたのだ

明日死ぬなら私の心はきっと微笑んで太陽に向かっていくだろうと思う

たとえ翼を灼かれて堕ちていく天使と同じ運命だとわかっていても

 

譜奏474

2019年12月27日

カトレアの花の香りで目覚めた朝

愛で結ばれた世界で生きていたいと

聖女は鏡に向かって話しかける

その時鏡は柔らかな母性のような微笑みを写し出していた

そうこの貴品に満ちた姿こそが真実の私なのだと聖女は高笑いして

それをもう一度確かめるように聖母のように目を伏せた

暗号で詩を書かなければ見つけられない愛には

限られた人にしか与えられない約束が成されているのだから

愛は私が見える周りにだけあればいい

私が心に持つ必要はないの

だって愛って扱いづらくて面倒くさいんだもの

キメラの翼の下人が私に恋して死と引き換えに贈った詩を天に掲げて

光の帯のように用意されたこの鏡に写る私を私は愛するの

この世に二つとない魔女の鏡を私はこうして今手にしているのだから

 

譜奏473