2020年1月13日

冷めたコーヒーにミルクを落とした時

私は久しぶりに時間の観念を持たずに過ごせた時間に感謝していた

ミルクはブロッコリーが早送りで成長していくように見えたり

何かが爆発して炎が広がっていくようにも見えたりした

思えばこの世に形の無い物という物がない

それらは例外なくやがては形を無くしていくというのに

私は小さな頃からそのことに淡い切なさを感じていたように思う

私にとっては言葉も感情も人の死も一つの形のように思えていたから

寒さを感じてそろそろ席を立ってカフェを出ようと思った時

ひょっとしたら私は今自分の夢の中にいるのではという疑いを持った

そしてそれならそれでどちらでも良いとも思っていたのに

私は座り直して祈るように背を丸めて何かにつぶやく素振りをした

幾何学模様の幻覚が私の視界を支配する中で私は思っていたのだ

どうせなら私は鋭角な星型になって叶うのなら光っていれば良いのにと

 

譜奏480

2020年1月10日

大人というのはいつからそうなっているのかよく分からないけど

一つづつ歳を取って身体が大人に見えるようになったら

それが子供じゃなくなったオトナなのだとしたら

カラダが大きくなった分なのだろうけれど

心って物理的にどんどん小さく狭くなっていってしまうよね

いつだったか私誰かと

手が痺れてしまうくらいの強い約束をした気がするのに

今その約束のことを全然思い出せないでいるの

その時はその約束を守ることが生きるすべてだと思っていたのに

私は置き去りにしてきたの、ただただ多くのことを

今になってその罪さえ思い出せないということが私を凄く苦しめている

もし最後の日に星群に定規を当てて線を引ける力が私の手にあったら

秘密を集めるように私だけの星座を作って

たくさんの名前を付けてあげられたらって今思っているの

 

譜奏479

2020年1月8日

月が砕けやがて地球も太陽に吸収されていき

宇宙も遠い未来には時間を失くして無の海になってしまうという

そんなことを解明してしまう科学なんて要らなかったのにと

寂しがり屋の私はそう思ってため息をつくの

突き詰めれば私の希いの本質は永遠という憧憬にあったから

いびつなほどに欲が深いのだろうかと思って

ついたため息を吸い込んで首を後ろに倒して

薄くなったため息を白壁天井に向かって今度は音をつけて吐いているの

生きるって何なのかな

人間って何なのかな

このぐるぐる迷路こそが今の私にとっての永遠というスクリーンだ

いつしか眠ってしまった私は冷たいヴィヴィッドな夢の中で

カラダが砂のように打ち崩されていくスコールに手を広げて

敵意だけの目を見開いて色のない空を見つめ返していた

 

譜奏478

2020年1月6日

街の雑踏に身を委ねてどこかから聞こえてくる笑い声を背中で聞いて

私は約束の場所に繋がる川橋の上を歩きながら

この平穏で幸せそうな光景にはどうしてリアリティが持てないのだろうと

いつものように額から胸を行き来するノイズの音を聞き流していた

この川はあまり流れない

しかしそれが水辺に集まる鳥たちが休める穏やかさを保っている

やさしいということには意図がないということの教えなのだろうと思う

人はただ自分をみつけて自分を生きれば良いのだ

派手な舞台化粧であからさまに戯けてその場限りを笑わせても

素顔を隠すピエロは誰のヒーローにもなれないのだから

橋を渡り切る時何かが乱反射したような気配がして振り返って

川面が光る舞台のように見えて誘われるように覗き込んでみたら

鏡のような水面に飽きられた人形のように

真っ白で何も無い目をした私が浮かんで消えていったような気がした

 

譜奏477