2020年1月22日

望むという気持ちを捨てられる人間はいない

丁寧に言えば人は一生涯何かを望み続けて生きていく

明確なら明確なもののまたその先を

曖昧なら曖昧なままに祈りを重ねて

今のこのままでイイ、もう何も望むものは無いからという人も

望むという行為の形の中にいることに変わりはないということだ

自分の人生なのだから自身が支配していくべきなのだろうけれど

しかしと私はため息のように思ってしまう

与えられなかったと感じた人の多くはその運命に悪態をつくのだ

拒まれたと感じただけで無抵抗に卑しく歪んでいったりする

ひどい言い方になってしまうと感じながら私は胸で小さくつぶやく

きっと愛にひどく打ち捨てられた者が支配欲を強くしていくのだと

たとえ花が咲いていても根が朽ちかかっていることを知らないように

そしてそれに似たたくさんの他の罪があるかのように

 

譜奏484

2020年1月20日

悲しみに和音があるのなら

きっとそのコードは次の和音を選ぶはず

だって悲しみを奏でなくてはいけないから

そのために見つけられたコードなのだから

私はバラードに入り込んでくるCが大嫌い

ただ約束事の中にいるだけのGも野暮ったい

濁らなきゃいけないの

どうせありきたりなセブンスがそのあとに用意されているのだから

オクターブの中にあと一つ見捨てられた1度があるはず

媚びることも出来ず協和音にも組み込めない異端の1度

私がその異端の化身になることが出来たらと思った時

何処からか愛を売るオペラ歌手の哀歌が

場末の人溜りの喧騒で媚びた性のように

ただ卑しく聞こえているような気がしていた

 

譜奏483

2020年1月17日

素面の詩人と小綺麗なバンドマンは信用出来ないと言いながら

彼女は多分堅そうな職業の男性と付き合ったことはなかった

貴女ほど気を抜かない服装をしているヒトはいないよねと

どんな時でもねと私がふわっと言ったら

だってワタシおばさん顔のブスだもんと彼女はケラケラと笑って

だから社会人になった時真っ先にメイクを徹底的にやったのよ

街で親と顔を合わせても親が判らないくらいにねと

ビューラーでしっかり曲げた睫毛の奥のカラーコンを輝かせてみせた

謙遜遊びをしている様子もなく本当に私はこの人は女性らしいと思った

その仕草や振る舞いやそして言葉遣いのトーンが特に羨ましかった

バカね劣等感よ思春期の生々しくて憎たらしいあの絶望的な劣等感

ホントはこんなはずじゃなかったのよと急に静かな声になったから

どうして?と私が聞こうとしたら遮ぎるようにだって貢ぎ物ですよって

言ってるようなものでしょと少女のような顔になって寂しそうに言った

 

譜奏482

2020年1月15日

人が正しいと言う判断が私は苦手なようだ

未だに正しいという意味が私にはよく解らない

その反動かも知れないけれど私という人間は過ちを見逃すことがない

正直私はそんな私自身を心底嫌っている

例えばと絶対口にしたくないと思いながらの例えば

もし愛する人が現れてその人の右目が見えなくなったら

私は私の左目を殺してその人の右目になって

二人で一つのモノを一緒に見ればいいと

恋を愛を私はそんな風に盲目に夢見てきた

それ以外の答などあるはずがないと断定して胸に秘めていた

しかしその想いは私の人生では始まりの序章でしかなかったのだ

何の気配もなく風に剥がされるように過ちは残酷に気づくのだ

それがいつまでも消えないでただ煙っているだけの

私の熱の火種でしかなかったのだと

 

譜奏481