2020年1月31日

寝そべっていた猫にダメな女を見流すようにあくびされて

私は小さな頃に机に置いていた黄色い笑い猫の貯金箱を思い出していた

最初はコトンとする音が面白くてその内にだんだんと重くなって

その手にかかる重さが重さの分だけうれしくなっていった

あの時の感覚が大人になるにつれて消えていってしまったのは

胸の中に貯まらない何かの質感のせいなのだろうかと思っている

夢を駈け抜ける

私の心は高熱に彷徨うようにその遠い喝采のざわめきを聞いていた

ある時は轟音のように

ある時は目を閉じて聴くわずかな凪の気配のように

だから私は身勝手に生きる

見えない何かが音を残して満ちていくあのときめくような質感を

私は重さとして心に落とすまで決して忘れることなどできないから

その質感の中で少女のままの私が戯れて笑っているのだから

 

譜奏488

2020年1月29日

人はどのように生きても

時に運命の力が不可解に働きかけてくることを避けられない

私が今見上げている星群の宇宙さえ最後にはゼロになるという

音も無く気圧も無く時間さえ無く。

当たり前のように私たちが悲しみや喜びの中で生きているのは

本当はただそれこそが大きな恵みなのかも知れない

日々を感謝して生き続けることなど恐らく人間には無理だろうから

愛という言葉が産み出されたのはきっとそのせいなのだろうと思う

人間にも意地があるのだ

だから私は生きることを複雑に考えようとする自分を諫めてきた

人はただ愛の実を見つけ育ててその森の中で生きれば良いのだと

どのような力が働いても構わない

私は私の森を舞う蝶や木洩れ陽や風を家族と感じながら生きる

そして夢の先に森を照らす光となって静かに息づいていたいのだ

 

譜奏487

2020年1月27日

顔はイケてないんだけど声が良い人と付き合って

顔はハンサムな方なんだけど声がちょっとねぇという人と付き合って

最初は男らしいんだけどだんだん女々しくなっていく人と付き合って

最初は坊やみたいだったのに男は男はって言い出す人と付き合って

何でも聞いてくれる感じなんだけどちっとも決められない男と

会うたびカラダばかり欲しがる男とも付き合って

そのたびに私は髪形と下着の感じを変えてきたの

気に入られて褒められてただ喜ばせたかったから

男の本性?を知るのに必要な時間はだいたい3〜6ヵ月くらいかしらね

まぁ途中でだいたい判ってはくるんだけど

でね、私ってね、判ってしまうと全然ダメな女なの

一種の病気よね、疼かなくなっちゃうの

付き合ってる時はネコのようにくっついているのに

私をすごく大事に思ってみつめてくれた人もいたんだけどね

 

譜奏486

2020年1月24日

友の訃報がメールで届いていた

タクシーの中で私は彼女と過ごした青春を思いながら少し泣いた

私がもし詩人だったら

この平面画面に何かを書き殴りたい気分だったけれど

湖に沈んでいくように静かに言葉は何も浮かんでこなかった

葉の影が怖いのと言った彼女の横で

赤い長靴を履いた女の子がはしゃぎながら小さな体を振って

顔を空に向けて踊っているのが見えたような気がしていた

私はその光景を前に地に足を捕まれた木のようになって

近づけない永遠のような距離を感じているだけだった

いつの時も私は無力なのだから

せめてその髪を揺らす風にでもなれたらと思ったあと

私は思いがけない激情に駆られて背筋を伸ばしていた

私はただ一緒に踊りたかったのだ

 

譜奏485