2019年8月28日

秋が似合う人だった

疑い深いところのある私が子供のように話せる人だった

何よりこんなにキレイに生きてきた人はいないと思える人だった

それなのにその人の訃報を受けた時

私は映画のラストシーンを見終えたような気分でいた

2人で少し酔った夜

その人は白い手ねと言って私の手を中指で撫でて

わたしね40を過ぎて整形してね皮膚が固くなっていてね

ちっとも変えられなかったのと言って

バチが当たったのよと笑った

お母さんの形見の指輪を質屋に売ったお金だったからねとまた笑って

本当に悲しそうにこぼしていた途切れない涙の糸が

風にさらわれた一枚きりの写真のように

ただ切なく愛しい思い出として私の胸に置き去られている

 

譜奏421

2019年8月26日

あなたには無意味だけど

あなたには出来ることで私には出来ないことを私が頼んだら

あなたは何故と私に聞きたくなるでしょう

でも私には大切なことだからと答えることしかできなかったら

あなたはその頼み事を聞いてくれる気になりますか

心苦しいばかりですが

私があなたに差し上げられるものはきっと何もありません

それをあなたは私に聞かないことも知っての上です

ところで

私には無意味であなたには大事なことをもし私が頼まれたら

打ちひしがれたような淋しげな表情を見せて申し訳ありません

それはあなたの買い被りですと私は答えます

あなたはその弱さを感じてひと時の強さを得ることでしょう

それがあなたの何故への私からの敬意です

 

譜奏420

2019年8月23日

布に尖った鉄が入って抜けて

色糸が鮮やかな花を咲かせるのがうれしくて

少女だった彼女は取り憑かれたように針を動かしたという

友だちの女の子の誕生日のために描いた絵に水をこぼして

クレヨンが滲んで醜い黒になっていくのを見てから

彼女は大好きだった絵を描かなくなった

色は他の色と混ざると無秩序に濃淡を広げて

悪い虫のような黒い形になっていくことに

彼女は突き放されたような裏切りを感じたという

だって綺麗は失くならないほうが良いでしょ

いつまでも綺麗なままが良いんだから

そう、花が好きなのね、でもどうして今はドレスを縫ってるの?

着るためよ、誕生日に、そしてね、わたし

生きたまま人形になりたいのと少女は言った

 

譜奏419

2019年8月21日

言葉を同調の証しとして依存する

注視線などの熱を好んで胸に貯める

思い出と現在を行き交わせ同じ線上に引く

弱さを庇う母性を快楽として味わう

定期的に悲しみという養分を摂取したがる

淋しさを乾燥させるのを嫌う

最後には利害を露わに出すことが正直だと思っている

自分に関係のない美しさは排他する

愛を妄信して動かないことを肯定する

晴れやかな運命への期待から離れない

これらで調理されたモノを食べ続けると

起点さえ曖昧な孤独に堕ちていく人になる

以上が無味無臭の劇薬

女という性の破滅のレシピ

 

譜奏418