2019年9月16日

日常は顕在意識で生きる他はなく

私はそんな日常に本当の自分を感じることが少ない

おそらく意識という空間は二極化で括れるほど単純ではなく

きっと緻密なプログラムによって作用し合っているはずだ

しかしそれを解明して名指す言葉が見当たらない

つくづく人の意識は原始にまで繋がっていると思わずにはいられない

それだけで人は最も秀でた素晴らしい対応体と言えるだろうと思う

必然的に私は潜在意識の中で生きている私と向き合っていることになる

そこに重力はなくまるで水膜に浮かんでいるような触感だ

空間そのものが血も肉も持たない生命体として息づいて

私の日常の思考を支配しているのだろうと思う

叶うなら私はその湖に棲む人魚になりたい

私の湖面は紫色の光に覆われているはずだから

私自身が魂のようにその色に同調していけばいいはずなのだから

 

譜奏429

2019年9月13日

向日葵とわたしを座らせて描いてくれていた父の姿が

影絵の劇のように胸に残っていると言ったあと

生涯働かない父だったけどねと彼女は笑った

銀の指輪がグラスに当たって小鳥の鳴き声のような音がしていた

そんな父が認知症のまま死んでしまったあと

わたし

なんとなく酒びたりになっていったみたい

父のアトリエに入るのが怖くて盛り場に居着くようになって

そしてなんとなくJAZZを歌うようになっていたの

JAZZを歌っているとね、悲しみが美しく思える夜があって

上窓からこぼれる月の虹を見上げながらわたし

廃屋のようになっていたアトリエに火をつけたの

遠い昔の話だけどねと微笑みながら彼女は右手に目を落として

そして柔らかな頬で私の目をみつめ返してくれていた

 

譜奏428

2019年9月11日

感染して捕らわれて心を塞ぎ

弱さを隠すために気がつかないフリを上達させる女たち

高価なものを性を誇張するように身に付けて

ゆっくりと萎んで知るか知らずか自分をダメにしていく女たち

安心な日常と安全だと思える危険をオモチャにして

透明だった欲望に悪い熱をこもらせていくように

似非仕様の心の内部に留保していく女たち

そして

比べることでしか自分の女としての価値を測れなくなる女たち

きっとそんな女たちには身を囲う場所なんてない

何故このような機能菌が作られているのだろうと思う

しかし何より一番に深刻に思えるのは

自分が何に捕らわれているのかが分かっていないこと

だったりするのではないか

 

譜奏427

2019年9月9日

悲しい絵本を読んだら

涙でいっぱいになって

不思議な絵本を見ていたら

口がとんがらがって

隠れた月が怒ったように

黒い雲を連れ出してきたら

雨が地上にリズムを振り落として

私の傘が

その音と遊ぶようにくるクルくるクル

空に向かって回りだす

誰も知らなかったダンスのように

何も知らない瞳のようにまた

クルくるっと笑って回ってる

回ってるの

 

譜奏426