2019年9月13日

向日葵とわたしを座らせて描いてくれていた父の姿が

影絵の劇のように胸に残っていると言ったあと

生涯働かない父だったけどねと彼女は笑った

銀の指輪がグラスに当たって小鳥の鳴き声のような音がしていた

そんな父が認知症のまま死んでしまったあと

わたし

なんとなく酒びたりになっていったみたい

父のアトリエに入るのが怖くて盛り場に居着くようになって

そしてなんとなくJAZZを歌うようになっていたの

JAZZを歌っているとね、悲しみが美しく思える夜があって

上窓からこぼれる月の虹を見上げながらわたし

廃屋のようになっていたアトリエに火をつけたの

遠い昔の話だけどねと微笑みながら彼女は右手に目を落として

そして柔らかな頬で私の目をみつめ返してくれていた

 

譜奏428