死ぬのなら
生まれてくるな
恋心
死ぬのなら
生まれてくるな
恋心
未来に盗聴器を仕掛けても
きっと私はわたしに何もしてやれない
流れるままに生きて知らない場所に行ってしまったら
またそこから流れていくだけなのだろうから
でも流れているということはいつかは止まるという約束でもあるから
そのいつかには私は海の病葉のようになって
藻場の森林を漂っていられたらそれでいい
未来なんて私には何の重力も持たない幻なのだ
今まで恥ずかしいから誰にも言わなかったけれど
儚い恋に苦しむ人魚が月影に映るわたしの胸の姿絵が
こんなにも孤独ぶった静寂な凪のせいで
誰かがケモノのように叫んだような声に似てしまったから
空も風も悲しい色に染まるしかなくなって
月も岩場も色線を消してしまったのだと私は思っていた
譜奏444
普通に生きる普通とはどう生きたことを示すものなのだろう
特にそれを褒める神の話も聞いたことがない
思うように生きたらそれでイイというやさしい言い方も
きっと収まりが良く聞こえるから流行ったのだろうと思う
親に好かれなくて親を好きになれない自分を責めて
離れた都会で時間になったら半額になる弁当を買い誰もいない夜の路地を自転車で走っていると
何か歌でも歌わなきゃと思ったりするけれど
泣きたくなるかもしれないから絶対に歌わないの
こんな私をどう生きていると表わす言葉があるのだろうと思う
神さまが見えたら心から助けて下さいと言うけれど
何から助けて欲しいと聞かれても言葉に詰まるだけだから
そんなものは絶対私は信じちゃいけないの
それよりさっきケチってジャスミン茶を買わなかったことを
私は今本当に悲しい気分で悔やんでるの
譜奏443
手を噛んだ仔犬が申し訳なさそうに見上げる目と
痛がったふりをした子供がごめんねと見つめ返すような
そんな形容しか浮かばない2人のツーショット写真が
私のスマホの家に静かに収まっている
まだ小学校に行き出したばかりなのに
私の髪は今と同じくらいに長く甘く巻かれていて
見つめ返していた子の頭は切られたばかりのようなオカッパだった
私が歌っていた歌を自然に覚えて2人で歌うようになって
春の陽の道を歩いた強い光を私は忘れることはない
その後あの目は何を見て何を求めて生きたのだろう
美しいものを見て生きることはできたのだろうか
小さくその名を呼ぼうとした時
先に私を呼ぶ声が聞こえてきたような気がして
私はどこかを見上げ涙をためた目でごめんねとつぶやいていた
譜奏442