2019年10月21日

未来に盗聴器を仕掛けても

きっと私はわたしに何もしてやれない

流れるままに生きて知らない場所に行ってしまったら

またそこから流れていくだけなのだろうから

でも流れているということはいつかは止まるという約束でもあるから

そのいつかには私は海の病葉のようになって

藻場の森林を漂っていられたらそれでいい

未来なんて私には何の重力も持たない幻なのだ

今まで恥ずかしいから誰にも言わなかったけれど

儚い恋に苦しむ人魚が月影に映るわたしの胸の姿絵が

こんなにも孤独ぶった静寂な凪のせいで

誰かがケモノのように叫んだような声に似てしまったから

空も風も悲しい色に染まるしかなくなって

月も岩場も色線を消してしまったのだと私は思っていた

 

譜奏444

2019年10月18日

普通に生きる普通とはどう生きたことを示すものなのだろう

特にそれを褒める神の話も聞いたことがない

思うように生きたらそれでイイというやさしい言い方も

きっと収まりが良く聞こえるから流行ったのだろうと思う

親に好かれなくて親を好きになれない自分を責めて

離れた都会で時間になったら半額になる弁当を買い誰もいない夜の路地を自転車で走っていると

何か歌でも歌わなきゃと思ったりするけれど

泣きたくなるかもしれないから絶対に歌わないの

こんな私をどう生きていると表わす言葉があるのだろうと思う

神さまが見えたら心から助けて下さいと言うけれど

何から助けて欲しいと聞かれても言葉に詰まるだけだから

そんなものは絶対私は信じちゃいけないの

それよりさっきケチってジャスミン茶を買わなかったことを

私は今本当に悲しい気分で悔やんでるの

 

譜奏443

2019年10月16日

手を噛んだ仔犬が申し訳なさそうに見上げる目と

痛がったふりをした子供がごめんねと見つめ返すような

そんな形容しか浮かばない2人のツーショット写真が

私のスマホの家に静かに収まっている

まだ小学校に行き出したばかりなのに

私の髪は今と同じくらいに長く甘く巻かれていて

見つめ返していた子の頭は切られたばかりのようなオカッパだった

私が歌っていた歌を自然に覚えて2人で歌うようになって

春の陽の道を歩いた強い光を私は忘れることはない

その後あの目は何を見て何を求めて生きたのだろう

美しいものを見て生きることはできたのだろうか

小さくその名を呼ぼうとした時

先に私を呼ぶ声が聞こえてきたような気がして

私はどこかを見上げ涙をためた目でごめんねとつぶやいていた

 

譜奏442