2018年8月22日

信号の青のタイミングが悪い日

止まるたびに私は思ってしまっていた

主語が探せないリフレインのように

きっと明日には分かると

私は自分という人間を生きているはずなのに

一方で深い森にさ迷う心細さに抑圧されながら

何かを待っている自分を見ないようにして

その反動の力で振り返ることを忘れたのかもしれない

今日私は垂直で細い字を見慣れない人のように書いた

その文字をどうしたら消せるだろうと怖れた時

不意にフロントガラスに

何かを表わそうとするような雨が

はしゃいでいるかのように

一群の音符のように降り出していた

 

譜奏261

2018年8月20日

行き当たらない幻のような不安に人は苦しむ

悲しみの在り処ははっきりしているというのに

解決しないままの事や置き去ってきた事が

人の心に棲みついて姿を隠して復讐する

おそらくそれが不安の正体だ

不安は良心の根だけに繁殖する執念深い原因菌として生きる

解決する方法はないと考えよう

人には全てを潔癖なものにする人生など与えられていないからだ

笑って生きよう

そして人の持つやさしさを素朴に信じて歩いて行こう

そうすればいつかきっとたどり着く

行き当たらないと嘆いてあきらめた

白蝶の群れる花園に

そしてどこかに約束された美しさに

 

譜奏261

2018年8月17日

金彩の小さな型紙を指に挟んで黒の盤面に置いたら

目に焼きつくほどに輝いて私はしばし忘れていた

その偏形がパズルの一つのピースだということを

全ての形状には完成形が与えられていない

形は成立していると見せながらまた違う形に飲み込まれていく

ある意味では今ある形状の全てが完成されたものとも言える

卑屈に言えば不完全な形そのものが存在しないということだ

もちろん形状は目に見えるものだけではない

人の心も感情も動きながらはっきりとした形状を持つ

そしてその形状はいつも狭い門の前に立っている

何かを問うかのように何かを問われているかのように

しかしはっきりしているのはその門の鍵の形状が

人間がコーティングした真実というピースの

飾り形などになっていないということだ

 

譜奏260

2018年8月15日

めずらしく都会が星明かりに包まれていたのに

透みきるはずの私の胸は淋しさでいっぱいだった

空も街も人も夢もいつか消えていく

この数日そんな幼い感傷から抜け出せないでいたせいだ

懐かしいと言ってもいいくらいの

もうとっくに卒業したと思っていた感傷だった

しかし私はこの淋しさが嫌いじゃなかった

むしろここにしかない甘酸っぱい切なさに

心が持ち上がっている自分を感じることができていた

人の感情は本当に一筋縄じゃいかない

人はその人そのものがミステリアスなのだ

淋しさって悪くない

何か不思議な結び付ける力のようなものを持っている

私はそう思ってもう一度星明かりの空を見上げていた

 

譜奏259