2018年6月20日

南の海流から砂浜に流れ着く瓶の中に

異国の魔術師が閉じ込められていて

蓋を開けてくれた少年の願いを3つ

お礼に聞いてくれるという物語があった

胸をときめかせた私は自分のことのように

発熱したように指を折って希いを数え始めた

希いは右の手を使い果たして左の小指を折り

左手を全部握ってもまだ行き着かず

私は枕の下に頭を入れて息を止めて怒っていたことを思い出す

その頃の夏

父が庭にオリーブの木を植えた

私はリンゴか蜜柑がいいと言って拗ねた

父亡き後の春にオリーブは花を咲かせ秋に実をつけた

葉を落とした冬の枝が寡黙な父の希いのように思えた

 

譜奏235

2018年6月18日

少女の黄色い服が風の中で揺れている

少女は道の真ん中で踊っている

酒瓶を手にした男たちが踊りを囲むようにたむろしている

少女の透き通った表情が無垢ゆえに生け贄のように見えた

親を知らないアンの黒い瞳と長い髪

時を背にして遺された哀しい物語の本

月の灯りに本の表を映させて

私は何度もそうしてきたように

その悲しみを好み幼い秘密を守るように陰に隠していた

泥の匂いを食べたように周りを見回していた

そして待つように

本の挿絵で目が合ったジプシーの老人が

杖をついた手を止めて振り返り

憐れむように私を見ているような気がしていた

 

譜奏234

2018年6月15日

幼稚園児の行列の前に保母さんらしき人が2人

後ろにも左右を注意しながら2人

真ん中に列を守って横歩きっぽい人が1人

しきりに何かを言いながら前進しているが

子どもたちは大騒ぎ

色とりどりの水筒と服の色が揺れていた

平和という言葉が祝福の光を当てているような

愛しささえ感じる光景

私は今この子どもたちを守ろうとしている仕事に出会え

幸せな眩ゆい熱の中で生きている

感謝してもしきれない気持ちという感情を

私は両親以外に初めて持つことができていた

多くの苦しかった出来事に笑顔にさえなれる自分を噛みしめて

私は驚く園児に手を振り振り光差すアスファルトを横切った

 

譜奏233

2018年6月13日

細い雨のように弱々しい青春を流して

強い風に追われるように顔のない大人を生きて

大きな墓石のように見える街を見た

私の帰る道は冬の足音に削られて

私を忘れようとしている道

私と似ていない長い髪の影が続くから

決して後ろを振り返ってはいけないと

息を穏やかに保つ声がする道

生きるということが

数独パズルのように

たった一つの集約を示すものなら

私はどんな苦しみにも諦めない意志を持つ

名も無い道の石がやがて砂になっていく約束の

時の区切りを必要としていると知らされていても

 

譜奏232