2018年6月11日

上手に生きることが一番良いことだと

子供たちの手を強く引いて迷子にさせて

実はその手の主も迷子だったということが

流行のように続いていた時代を見ていたことがあった

今は別の価値に変わっていたら良いと思う

人生は自分の心に少しの誠意を欠いて生きさえすれば

幾らかの利便を得ることは誰もが知っている

一番に寂しく自分だけが傷つく罪と教える人は少ないけれど

もし太陽に焼かれて落ちる前の天使に会えたら

私はこう言うの

私は死んだら

繻子の藍に織られて踊りの糸に美しく重ねられて

喝采の色を聴いていたいと

思っているのと

 

譜奏231

2018年6月8日

恋を花のように食べる彼女は

甘いウェーブの髪を針のような直毛にして

肉付きのいい腰に黒サテンを這わせ

舞台に上がってくる女優のように

颯爽とした笑顔を私に向けてきた

彼女はいつものように聞きもしないうちから近況を話し出す

今わたしね3人の男と寝ているの

スタートがそれだった

銀のイヤリングを癖のように触る銀の爪

目をキラキラさせる力がたくましくなっていた

もうこの目は白の薔薇のことなど忘れているのだろうと思った

白も重ね続けると白のままではいられない

私は彼女の愛への心気症を愛しい想いでみつめて

母性のように微笑み返していた

 

譜奏230

2018年6月6日

行ったはずのないサーカスの

喝采のざわめきの波に

私は一人取り残されて立ち竦んでいる自分を

現実に渇いていく身体のように

身近な実感として感じ始めていた

カクテルゼリーがばら撒かれたような

玩具のようなフィルムが

私の脳裏にぶつかって転んでいく

また寂しそうなピエロ

あなたは夜明けじゃなかったの?

そう思って私は初めて気がついた

話す相手がいないのだ彼は

だから

耳も聞こえていないのだと

 

譜奏229

2018年6月4日

星を見ても何も感じない夜

私を複雑な無色に見せている迷彩は

私自身が眠りの中で描いていた濃淡なのだと

深い眠りの底の住人が教えてくれた

あなたは毎夜訪ねてきますよ

裸足でね

哀れだと思っていましたけどね

瞼を開けたことがないから

そう言っていた気がした

しかし私の目に見えていたのは

ペンローズの面のように広がる区切りのない道だった

この人は少なくとも1度は私に嘘をついていると思った

だってメビウスの輪は少女のようにみつめなければ

呪いのようには終わらなかったのだから

 

譜奏228