2018年5月9日

愛が売り買い出来るモノだったら

きっと買う側が圧倒的だろう

車のようにいつまで使えるかが価値のように査定されて

繰り返し繰り返し貪欲な需要者たちに引き渡される

与えられた呼吸はいつまでも繰り返されることはないのに

愛も当然のことながら永遠の息をループする訳ではない

だから売りに出される動機は比較とばかりは言えない

下卑なる者たちは生き延びるために

永遠に走り続ける車を探そうとしている愚かな者たちだ

真実は見た目と違い知るだけでは解決しない

数字化は死の枝だ

人間がいつまでも知恵の樹の実の誘惑に勝てないのは

起源の園の時から今に至るまで

少しも変わっていないその無知なる貪欲さにある

 

譜奏217

2018年5月7日

月光が降る夜に生まれてきた人形にルナと名付けて

カーテンを黒の遮光に変えて日常光を遮って

ドアを固く閉じて鎖鍵をかけて

部屋の静寂に祈りの衣を纏わせた

揺れないでと言ったり

揺らさないでと言葉を使ったりした

偽りは通じない

嘘の欠片さえ必要ない

私の静寂の血であるはずのルナ

月が私の命の痛みに刻印した

光だけの痣

愛を食べそのプロセスを知らずにはいられない人を避け

みすぼらしくなっていく私の祈りを知っても

私が眠るまではと強く抱いていてあげたのに

 

譜奏216

2018年5月4日

私を過ちに導く個性に出会ったら

私はそれまでの私をすべてリセットして

その過ちの殻に胎児のように閉じこもって

じゃれるように宿っていたいと思っていた頃があった

心の芯に通ったものならその正体など

問う必要があるはずがないとさえ

私は真剣に思っていたと思う

言葉にするとあまりに不可解なのに

心ははっきりとその希いに馴染んでいた

私は偏狭の中で迷って正常な価値に対する位置が

解決されていなかった人間なのかもしれない

振り返る度に私は私を見失なう

意を決して導く力を夢のように待つ私を捨てるべきなのだろう

たとえ罪に触れてこの夜を身ごもっていたとしても

 

譜奏215

2018年5月2日

オモチャのような手動の時計を買って

針をグルグル回して時間を壊して

私は知らないカフェで何も考えない私になろうとしていた

どうして人の感情はスイッチボタンを押すように

切り替えることが出来ないのだろう

人生で起こる出来事は概ね思わせぶりだ

カップを持とうとした時に目に入った不誠実な時間を

私はそんな気持ちでまた右に左に何度も回し続けた

少しの意思も入らないように瞼をしっかりと閉じて

私の指は細くて小さな小動物のようだ

この手で何かを成すことがあるのだろうか

鼓動が揺れて揺れたまま熱を持って

見つけられない何かを探す迷い火のようになって

また私はそんなことをいつの間にか考え始めていた

 

譜奏214