2019年6月14日

人が運命というシナリオを好んで神格化してしまうのは

結局は死に対する恐れなのではないかと思った

自分らしく生きたい

出来れば華々しい人生を遺してと

その発端は限りある時間の中でという現実的な認識と

連鎖した諦観からすべてが始まっている気がする

私自身もその群れにいる一つの命には違いないけれど

私はその連鎖には追従しない

何故なら未来に想いを馳せるシナリオは

人の命に与えられた最も高価な自由への尊重だと知ったからだ

思慮を避けた恐怖を下地にした人生など

ウィルスに感染した重病人のようにしか見えない

人はただ自分の意義を探して生きればそれで良い

時にシナリオに赤字添削を書き込む苦悩があったとしても

 

譜奏389

2019年6月12日

誰にも気にも留められなかった子供は恐る恐る境界に立ちながら

どちら側の線も越えずに大人になった

自分では裸足で歩いてきたと思っていた

ある時街で赤い服を見かけた

アルバイトをしたお金が貰った封筒のままバックに入っていた

試着しないで大丈夫ですかという声に答えずに

彼女はその服を買い部屋の壁に飾った

冬の冷たい雨が降る日には1日ぼんやり見ていることもあった

蛍光灯の光が嫌いで部屋には白熱灯のスタンドが2つあるだけだった

1週間が過ぎた頃

壁の赤が日に日に年老いていくように感じるようになっていた彼女は

腹立たしくなって取り出したハサミで服をずたずたに切り裂いた

その後で畳に散らばる赤が

紅葉のように鮮やかになっていくのをただみつめていた

 

譜奏388

2019年6月10日

金髪になっていたと思って驚いていたら

女は高笑いしながらコレ、ウィッグよと言った

目の周りに柔らかな肉がついて口元が聡明になっていた

前回会った時は確か黒い皮膚のようなサテンのワンピースを着て

胸を半分露わにしていたが今日は一転してふわっとした服装だった

だって外人なんだもん、アメリカ人、背は低いけど

雨の六本木で拾われて彼のオモチャになってたんだけど

気が合っちゃったっていうのかなァ、愛も芽生えちゃったし

聞かれたように答えるいつものパターンが始まっていた

一瞬また妄想の中にいるのかと疑った時

女は素早く私の手を奪って自分のお腹の上に置いていた

ネっ、ほんとでしょ、大現実なのよぅ、撫でてみてったら

そうなんだ良かったね、と私は彼女の痩せたお腹に気づかぬふりで

表情に精一杯の力を込めて微笑み返してみせた

 

譜奏387

2019年6月7日

生きていくためにキレイな精神が必要なように

何かの調和を図るために

嘘や偽りも必要とされているところが

動かない水面の絵のような

人間というジグソーパズルの興味深いところだと思った

目の前に現れた死期の近い人を

一瞬に健常な者に戻せる旅人は

いつの世にも現れない

待つことは報いと対峙している価値と諌めよう

何としても私自身の主体として

私を生き延びるために

それは落ちるように眠った夢が

忘れていない悲しい出来事の監獄だと

後から気づいたからだ

 

譜奏386