誰にも気にも留められなかった子供は恐る恐る境界に立ちながら
どちら側の線も越えずに大人になった
自分では裸足で歩いてきたと思っていた
ある時街で赤い服を見かけた
アルバイトをしたお金が貰った封筒のままバックに入っていた
試着しないで大丈夫ですかという声に答えずに
彼女はその服を買い部屋の壁に飾った
冬の冷たい雨が降る日には1日ぼんやり見ていることもあった
蛍光灯の光が嫌いで部屋には白熱灯のスタンドが2つあるだけだった
1週間が過ぎた頃
壁の赤が日に日に年老いていくように感じるようになっていた彼女は
腹立たしくなって取り出したハサミで服をずたずたに切り裂いた
その後で畳に散らばる赤が
紅葉のように鮮やかになっていくのをただみつめていた
譜奏388