2019年6月5日

何かで汚れていたヒールを履いていた女性は

目を閉じるように心を閉ざしたテーブルで脚を組み

浮かした踵を棄てるように投げ出していた

夜明けに思い描いていた5度の音階を急ぎ過ぎて

踏み誤った夜のフェスタからはぐれたように

ありふれていて意識さえ忘れていた静寂が揺れて

水時計の滴が落ち切ったような気配が聞こえていた

人は自分を知ることなど許されているのだろうか

夜の欠片が愛もなく憐れみをみせて

引き止める力を失くしていくことを楽しむように

マニキュアの雫が落ちたような赤を褪せさせていく

集められた燐光を母性のように誇張して

身を潜めていくように消えていくその影を

その陰のままに私に見せつけようとしているように

 

譜奏385

2019年6月3日

大切にしていた宝物が

手をすり抜けていく音を聞いた夜

誰もいない街を歩いたの

湖に沈むように

人は人をみつめて

ただ生きていけばいいって

やさしくささやいた声を

憎みながら

生きることのすべてが

造り物のよう

寂しげに重なった

紫の葉脈さえ

朽ちるを知るかのように奏でし

薔薇のセレナータ

 

譜奏384

2019年5月31日

水平線

遠くの波

明日という日

みつめた In BLue

海を棄てた人魚のように

空で生まれて

虹になる愛より

偽りの涙をひとしずく

罪深いわたしの手に

透明な水のように

生きていけたらいいのに

教えてください

奇跡

運ぶ祈り

 

譜奏383

2019年5月29日

明日

邪魔になる自分を捨てて

今日

さよならと言って

かざした手から

まだらに零れ落ちる

光の粒

人がやさしさだけで

生きられるなら

走ってきて

速く

森を過ぎ去る風のように

運命より

強く

 

譜奏382