2019年6月5日

何かで汚れていたヒールを履いていた女性は

目を閉じるように心を閉ざしたテーブルで脚を組み

浮かした踵を棄てるように投げ出していた

夜明けに思い描いていた5度の音階を急ぎ過ぎて

踏み誤った夜のフェスタからはぐれたように

ありふれていて意識さえ忘れていた静寂が揺れて

水時計の滴が落ち切ったような気配が聞こえていた

人は自分を知ることなど許されているのだろうか

夜の欠片が愛もなく憐れみをみせて

引き止める力を失くしていくことを楽しむように

マニキュアの雫が落ちたような赤を褪せさせていく

集められた燐光を母性のように誇張して

身を潜めていくように消えていくその影を

その陰のままに私に見せつけようとしているように

 

譜奏385