何かで汚れていたヒールを履いていた女性は
目を閉じるように心を閉ざしたテーブルで脚を組み
浮かした踵を棄てるように投げ出していた
夜明けに思い描いていた5度の音階を急ぎ過ぎて
踏み誤った夜のフェスタからはぐれたように
ありふれていて意識さえ忘れていた静寂が揺れて
水時計の滴が落ち切ったような気配が聞こえていた
人は自分を知ることなど許されているのだろうか
夜の欠片が愛もなく憐れみをみせて
引き止める力を失くしていくことを楽しむように
マニキュアの雫が落ちたような赤を褪せさせていく
集められた燐光を母性のように誇張して
身を潜めていくように消えていくその影を
その陰のままに私に見せつけようとしているように
譜奏385