2019年6月24日

深い黒のサラサラ髪を揺らして

抜けるような笑顔で友だち達と歩いていた

学生時代の彼女を思い出していた

久しぶりに会った彼女はカフェラテを両手で飲みながら

すごいの、会った時は指もちゃんと動かせなかったの

それがね、今はね、楽しそうに楽器を弾くのよ

すんごいうれしそうに笑いながらね、弾いちゃうんだよ

要約すると彼女は障害を持つ子供をサポートをする団体にいて

その子達の初めての演奏会があるから来てくれないかということだった

当日私は狭いホールの一番後ろの席に座って舞台を見ていた

正直演奏は聴くに堪えないものだった

でも何故か涙が出ていた

客もまばらな暗がりで雑に髪を後ろに束ねた彼女の姿があった

身を屈めてリズムを取る彼女を私は本当にただ美しいと思っていた

 

譜奏393

2019年6月21日

空色に赤いチューリップが描かれたティーカップを見つめ

私はキレイというほとんどの気持ち以外の

ほんの少しの鈍い感情を感じていたが

その感情が言葉に成熟したのは

そのことをすっかり忘れていた大人になってからのことだった

扇情的

私はあの可愛いカップを扇情的と感じていたのだ

花は女性たちが着る艶やかな服とそして化粧にも似ている

露わに言えば私はそこに性の香りを感じていたのだ

旅人の目を引き止めなければ生きられない

ジプシーの女の夜のように

私はあの日のミステリアスな気持ちが言葉になったことを悔やんだ

それは私の奥で蠢いていた鼓動のようなものが

何かに認められたように暴れ出すような気がしていたからだ

 

譜奏392

2019年6月19日

重い苦しみに出合う時

受け止められない不安に怯える時

多くの人はただ立ち止まることを恐れ

その場から逃れることだけに囚われてしまう

そして過去と未来を徘徊する断片に傷ついていく

心の中を濃霧のように浮遊する

自身の確信的な明日の罪を従わせても

その解決の聖水を示す書は何処にもないというのに

立ち去ってはいけない

巡礼する者よ

あなたはいつまで弱き者として生きるのか

未来の扉はあなた自身を

そして全ての時間を許すことでしか開かないと

示唆を与え続けてきたはずなのに

 

譜奏391

2019年6月17日

サンタさんのソリを引くトナカイの名前を

一つづつ人差し指を指しながら言ってる小さな子がいた

小さかった私はへえーっと思ってその子を見ていた

トナカイに名前なんてあったんだぁと思った

その子は私より小さかったのにすごいなと思った

しかしその子が指差す先には何もなく

同じことを繰り返して言っている姿がだんだん寂しそうにも思えていた

ダンサー!

彼女は最後に必ずそう叫びそのあとサンタの歌を歌った

その歌がなければきっと私には

トナカイの名前だとは分からなかっただろうと思う

ただそれだけの光景を今でも私は不思議な気持ちでよく思い出す

右手に持っていた食べかけのアイスクリームが溶けて

陽が燦々と降り注ぐ夏の午後のことだったからかもしれない

 

譜奏390