2017年5月3日

氷河で削られてできた深い湖の

湖面のスクリーンに

いろんな色に変わっていく花や

木の葉が映っていた

それを見た少女は目を見開かせて

わずかに揺れる色を楽しみ

形を聞き

音を見つめていた

母を失くしていた少女はある日

湖に立って遠くに行くのと囁いた

だからもし空から見てるなら

これからはもう見ないでと言った

良いことは起こらないから

だからもう見ないでと囁いた

 

譜奏57

2017年5月1日

バラードの4拍子の中に

埋もれていた切ない時間が

無数の放物線のようになって

眠りを妨げる夜

親しんだフレーズに

耳を塞いだ手を

開かない貝の形にして

私は

異物のようになっている心が

身体から切り離されることを

祈るようにその静けさに委ねた

私は怯えていたのかも知れない

私そのものが変わっていく

確かな兆しに

 

譜奏56

2017年4月28日

雑踏を過ぎる人々を

予めの気まぐれな春の前触れを

私はカフェの一面窓を射す陽に視界を歪ませながら

朽ちていく者たちを見送るように見ていた

私自身がそこに居ない安堵を

健やかな傲慢と自覚しながら

この世は根の区別されない価値を比較することで

曖昧なIDをカモフラージュしている曲者だ

寄り添うことに意味があるのかと問うことなど

虚ろな歪みのように萎えていく

極端な判断だろうと思う

しかし私の魂の根は確かに遠い喝采を感じ

私の中の異端を愛し始めていくのを

止められないでいた

 

譜奏55

2017年4月26日

天気雨の夏の日に空を見て

私は鳥になって空を飛んで

遊んでいたいと思った

やがて夕焼けになり

夜になり

キレイな三日月を見て

私は月になりたいと思っていた

そして願えば私は

鳥にも月にもなれると信じていた

思えばそれは

欲望の始まりだった

今私は鳥の死骸を見ても

月を黒く塗りつぶしても

哀しみの影さえ動かない

 

譜奏54