2017年8月4日

この部屋の秒針の音が

どこかの砂漠の砂を揺らして蒼い陰を創る夜は

砂粒がデジタル音のようにキュッと鳴いて

私の部屋の四隅に還って眠らない

一秒は二秒を追い

逡巡するように三秒は一秒を確かめる

無機と思えるモノほど

複数形としての存在を保つのは何故だろう

静寂は受け身に見えて私には最も騒がしく

際限なく受け入れる脅えを私に与え

夜毎悩ましいほどにその手を広げている

まるで愛する者の旅の終わりを待って

その蒼い翳りを背に

寡黙に抱きしめるかのように

 

譜奏97

2017年8月2日

私は私を生きるだけと

力点に思い当たることもなく

作用点のような場所で

軸を尖らせて円舞していた私に

気づいたフリをしてみせた日

雨の朝

私は私の費やされてきた思いを

対論もなく遮り

風に死んでいく弱い雨粒を

馴れた作り笑顔の目で見ていた

現実は瞬き一つの画

ならば

夢は

例えば千年木だと

吐き捨てて

 

譜奏96

2017年7月31日

生きる時間の中で

自分の持つ希いや欲望の

本音や本心を口にすることは

稀な出来事と言っていい

ならば

巷に溢れる夥しい言葉のほとんどは

そのエリアの外に属しているということになるのだろうか

宵の雑踏をガラス越しに見ながら

私はとりとめもなくそんなことを考えていた

信頼という言葉が

苛立たせる虫のように私の胸を落ち着かないものにする

人類が培ってきた遺伝子の中に

信じるという前提を必要としたウィルスを投げ込んだのは

やはり尊大なだけの神の不信体質のような気がする

 

譜奏95

2017年7月28日

どこかの森の中に迷い込んだように

私は髪を括り上げ

葉音を揺らす風のように

舞台の袖から歩き出していた

私は彷徨っている

この僅かな歩幅を繰り返す毎に

私はその自覚を確認する

真っ直ぐ歩くのに辿れない

辿れないのに

同じ音しか続かない

円のようなこの森を私は歩く

巡礼者とすれ違うように

心に透明なニカブを

被うように

 

譜奏94