この部屋の秒針の音が
どこかの砂漠の砂を揺らして蒼い陰を創る夜は
砂粒がデジタル音のようにキュッと鳴いて
私の部屋の四隅に還って眠らない
一秒は二秒を追い
逡巡するように三秒は一秒を確かめる
無機と思えるモノほど
複数形としての存在を保つのは何故だろう
静寂は受け身に見えて私には最も騒がしく
際限なく受け入れる脅えを私に与え
夜毎悩ましいほどにその手を広げている
まるで愛する者の旅の終わりを待って
その蒼い翳りを背に
寡黙に抱きしめるかのように
譜奏97
この部屋の秒針の音が
どこかの砂漠の砂を揺らして蒼い陰を創る夜は
砂粒がデジタル音のようにキュッと鳴いて
私の部屋の四隅に還って眠らない
一秒は二秒を追い
逡巡するように三秒は一秒を確かめる
無機と思えるモノほど
複数形としての存在を保つのは何故だろう
静寂は受け身に見えて私には最も騒がしく
際限なく受け入れる脅えを私に与え
夜毎悩ましいほどにその手を広げている
まるで愛する者の旅の終わりを待って
その蒼い翳りを背に
寡黙に抱きしめるかのように
譜奏97
私は私を生きるだけと
力点に思い当たることもなく
作用点のような場所で
軸を尖らせて円舞していた私に
気づいたフリをしてみせた日
雨の朝
私は私の費やされてきた思いを
対論もなく遮り
風に死んでいく弱い雨粒を
馴れた作り笑顔の目で見ていた
現実は瞬き一つの画
ならば
夢は
例えば千年木だと
吐き捨てて
譜奏96
生きる時間の中で
自分の持つ希いや欲望の
本音や本心を口にすることは
稀な出来事と言っていい
ならば
巷に溢れる夥しい言葉のほとんどは
そのエリアの外に属しているということになるのだろうか
宵の雑踏をガラス越しに見ながら
私はとりとめもなくそんなことを考えていた
信頼という言葉が
苛立たせる虫のように私の胸を落ち着かないものにする
人類が培ってきた遺伝子の中に
信じるという前提を必要としたウィルスを投げ込んだのは
やはり尊大なだけの神の不信体質のような気がする
譜奏95
どこかの森の中に迷い込んだように
私は髪を括り上げ
葉音を揺らす風のように
舞台の袖から歩き出していた
私は彷徨っている
この僅かな歩幅を繰り返す毎に
私はその自覚を確認する
真っ直ぐ歩くのに辿れない
辿れないのに
同じ音しか続かない
円のようなこの森を私は歩く
巡礼者とすれ違うように
心に透明なニカブを
被うように
譜奏94