2019年12月23日

自分の信念を持って生きるということは素晴らしいことだと思っていた

その上に確かな夢の葉が生い茂り使命へと研ぎ澄まされていく

これ以上ない祝福された人生の在り方だと誰しもがイメージするだろう

私も一度としてそれを疑ったことがなかった

そんな自分になるために精一杯の葛藤を繰り返してきたと言っていいから

しかし、と私は今思ってしまっている

その信念。

出自の不明なその信念という固形物のような感触のものは

いったい何によって受粉して形を得たものなのだろうと

そもそもその胚と受け入れる着床という機能の構図は

どんなロジックによって何者が用意したものなのだろうと

しかし多分こんなことは考えるだけムダで不毛な問いでしかない

結局人は解らないことは神の仕業ということにするしかないのだろうから

近頃私は投げ出すように最後は神という結びが鼻についてしかたないのだ

 

譜奏470

2019年12月20日

さびしいくらいでちょうど生きてる気がしている

苦しみに沈む時は雨を待てばいいくらいに思っている

悲しみを感じることはほとんどない

誰かの約束を盗んでその約束を守るために生きてもいいと

飛躍した妄想に衝動を覚えたりすることがある

私は私自身が人生のありきたりな光景の中の一つでしかないと感じている

この身体に流れる血でさえ借り物のような気がしているのだから

私は待っている

気まぐれに操り糸を引く人を焦がれる埃っぽいマリオネットのように

運命という訪ね人が近づいてくる足音を

赤信号で止まって青信号に変わって歩き出す日々の多くの無口な制約

顔も内臓も白く透けたように見えていたのかもしれない

夜のバスの窓からありふれた景色のように私を見る人の目が

捨ててきた過去のようにすぐに消える風音の背後を通り過ぎていった

 

譜奏469

2019年12月18日

違う、と思って気づかないフリをしていたが

声でしょ、声が違うと思ってるんでしょ、と目を覗き込んできた

声帯にステロイドが入ってるの

手術したのよ、と恋中毒の女はさばさばと言った

どうして、と聞きたかったが聞くほどの関係でもなかった

それでその話は終わって会わなかった数年間の雑談をした

黒髪がロングのチェスナットブラウンになり

リップしかつけなかった唇は艶やかなグロスピンクになっていた

それに合わせたアイボリーに近いマニキュア

服装も含めて全体の印象が性人形化しているように見えた

別れ際女は私の目に十本の指を開いてまたお茶しようねと言って

両親がね、もう死んじゃってね、もうわたしのこと知ってる人がいないの

と後ろ歩きしながら黒髪の頃のようにあどけなく手を振った

私は熱くなっていく胸に気づかないようにただ手を振り返しただけだった

 

譜奏468

2019年12月16日

永遠でなくてもいい

誰も壊せないものを

限りある命の終息までに

この手に創りたいと

私は仰いだ千光を祈りの虹彩に写して

敬意の地に額ずいた

額から現れる血の赤を

光源の仮神に認視させるために

しかし一方で

形あるものこそ歪なるものという問いに

私の祈りは揺れ萎える

万物のそしてこの命そのものがその証なのではと

ならば浅はかなる者として音言葉を地に落とそう

ならばやはり永遠をと

 

譜奏467