2019年6月19日

重い苦しみに出合う時

受け止められない不安に怯える時

多くの人はただ立ち止まることを恐れ

その場から逃れることだけに囚われてしまう

そして過去と未来を徘徊する断片に傷ついていく

心の中を濃霧のように浮遊する

自身の確信的な明日の罪を従わせても

その解決の聖水を示す書は何処にもないというのに

立ち去ってはいけない

巡礼する者よ

あなたはいつまで弱き者として生きるのか

未来の扉はあなた自身を

そして全ての時間を許すことでしか開かないと

示唆を与え続けてきたはずなのに

 

譜奏391

2019年6月17日

サンタさんのソリを引くトナカイの名前を

一つづつ人差し指を指しながら言ってる小さな子がいた

小さかった私はへえーっと思ってその子を見ていた

トナカイに名前なんてあったんだぁと思った

その子は私より小さかったのにすごいなと思った

しかしその子が指差す先には何もなく

同じことを繰り返して言っている姿がだんだん寂しそうにも思えていた

ダンサー!

彼女は最後に必ずそう叫びそのあとサンタの歌を歌った

その歌がなければきっと私には

トナカイの名前だとは分からなかっただろうと思う

ただそれだけの光景を今でも私は不思議な気持ちでよく思い出す

右手に持っていた食べかけのアイスクリームが溶けて

陽が燦々と降り注ぐ夏の午後のことだったからかもしれない

 

譜奏390

2019年6月14日

人が運命というシナリオを好んで神格化してしまうのは

結局は死に対する恐れなのではないかと思った

自分らしく生きたい

出来れば華々しい人生を遺してと

その発端は限りある時間の中でという現実的な認識と

連鎖した諦観からすべてが始まっている気がする

私自身もその群れにいる一つの命には違いないけれど

私はその連鎖には追従しない

何故なら未来に想いを馳せるシナリオは

人の命に与えられた最も高価な自由への尊重だと知ったからだ

思慮を避けた恐怖を下地にした人生など

ウィルスに感染した重病人のようにしか見えない

人はただ自分の意義を探して生きればそれで良い

時にシナリオに赤字添削を書き込む苦悩があったとしても

 

譜奏389

2019年6月12日

誰にも気にも留められなかった子供は恐る恐る境界に立ちながら

どちら側の線も越えずに大人になった

自分では裸足で歩いてきたと思っていた

ある時街で赤い服を見かけた

アルバイトをしたお金が貰った封筒のままバックに入っていた

試着しないで大丈夫ですかという声に答えずに

彼女はその服を買い部屋の壁に飾った

冬の冷たい雨が降る日には1日ぼんやり見ていることもあった

蛍光灯の光が嫌いで部屋には白熱灯のスタンドが2つあるだけだった

1週間が過ぎた頃

壁の赤が日に日に年老いていくように感じるようになっていた彼女は

腹立たしくなって取り出したハサミで服をずたずたに切り裂いた

その後で畳に散らばる赤が

紅葉のように鮮やかになっていくのをただみつめていた

 

譜奏388