オレンジが上手く剥けなくて
ナイフで横切りにしたら花が咲いたように開いて
私は何だか悲しくて
スプーンでぐりぐりと果肉を潰して
溢れてくる果汁の色をみつめていた
いつかこの色を傷のように思い出すと思いながら
今夜はベランダからキレイな星がたくさん見えていた
私はぼんやりと人の心にはいくつの扉があって
いくつの鍵が必要なのだろうと思いながら
見える星の数を数えようとする誘惑から逃げた
その夜魔女のような髪型をして鏡に写る私の夢を見た
失くした子の写真に本を読んでいる人のように
娼婦のような気分になって歩いている少女のように
その目には何の色も映し出されていなかった
譜奏310