2018年12月21日

悲しいことも苦しいことも飲むだけで

すっかり忘れてしまうサプリメントが出来てしまったら

どんなに良いだろうと思った後

そうなったら人間はマネキン人形のように

みんな同じような顔になってしまうように思えて

さすがにそれはかなり気持ちが悪いことだと思った

利便も程度をわきまえて望まないと

人間を物事のどちらも選べなくさせていくのではと

そんな気がする

そう思った後

もし私が私として生きられる命がもう一度あったら

登場人物は全て同じ人が良いと思い私ははっとした

父母の顔がマネキン人形のように
浮かんできて

私を知らない人のように通り過ぎていく気がしたからだ

 

譜奏314

2018年12月19日

目に見えるものしか信じない

形が有るものしか認めない

昔よく耳にしたフレーズのような気がするけれど

そういう人も苦しい時には祈るのだろうか

今の若い世代の人たちはどうなのだろう

日常に携帯電話は欠かせないし

電車もカードの磁気信号で乗っている

家に電気が無ければ明かりもテレビも冷蔵庫も動かない

ただ科学技術の進歩と片付けて考えることもないのだろうか

私はイタズラな気持ちでパソコンに愛と打って

意地悪な質問を続けながらじっとモニターを見ていた

もしかしてその文字が動いて話し出すかもしれないと思ったのだ

そんなはずはないのだけれど

答えられてもすごく困ってしまうのだけれど

 

譜奏313

2018年12月17日

楽屋口から深夜営業の店に向かって歩いて

何も聞かないでと言う彼女の前に

私はドリンクバーで淹れたコーヒーを置いて

そして長い時間黙り込んでいた

涙が出ていないだけの泣き顔は永遠のように動かなかった

彼女は青春のほとんどを下積みに費やして

やっとコミカルなキャラでミュージカルに呼ばれるようになって

今日の楽日まで明るいだけの中性を見事に演じ切っていた

知ってるんでしょと聞かれて私は目を伏せた

ピアノしか無かったのよあの子の部屋に

その下で寝てその下で死んじゃったから

私はメイクを落としていない彼女のアイシャドウを見ていた

そしてやっと流れてきた涙をただじっとみつめ返していた

聞こえてくるジングルベルがリフしないようにと願いながら

 

譜奏312

2018年12月14日

絵は見て欲しいと額に飾られている

ラブソングは誰かが誰かを愛しいと歌っている

川は雨を身ごもって海のシリウスに流れ

植物は光をもっと食べようと空だけを見上げている

なりたいモノになっていない色は褪せても動けず

愛は嗜好品の定めで続けて投げかけていかねばならず

奇跡の数の

ごくわずかなコンセンサスしか残さない

花は命を繋ぐ生死のために恋を振る舞うのに

当然枯れると知りながら

人間だけが切って挿して部屋に飾る

そして夜と昼が回し車のように繰り返され

繰り返さない静寂だけが

不眠症の哲学者のように眠らないのだ

 

譜奏311