2018年10月10日

水に棲むピアスの輝きが消えていくように

ビルの夜灯を写していたガラス窓に雨が落ちて

夜に塞がれた時間が黒い煤のように

私を息苦しくさせる時

私が天使のように振る舞えば

その反動の力で悪魔の欲望が深くなり

深くなった欲望は何かを実行したい衝動に苦しむと

天使はしたり顔で囁いてくる

では私は悪魔を振る舞えばいいということなのだろうか

そういう話になる

人はいつも自分の心とせめぎ合いながら生きていく

その暗がりに胞子を落としたような

天使という悪魔という仮装言葉が

私には壊れにくい玩具言葉にしか思えない

 

譜奏283

2018年10月8日

過去から今に線を繋いで未来を警戒して

誰しもが自分を知りたいと希うことを

私は好意的な気持ちを持って同調してきた

私の好奇心の根の触角もずっとそこに向いていたから

その願望は疑いようがない位置にいて

考える余地の凹凸さえ感じることができなかった

何度か思い返してもその率直な実感しか残っていない

しかし自分が呼吸していることが動物のようだと腑に落ちて

今私が考え行動していることのすべてが

知りたい自分から逆線を引いた答なのではないかと思ったら

明らかに私の見当識が動揺して投射影のように

あっさりと実体を放棄していく信号波を出し始めていったのだ

何かの童話に似ていると思った

私はそのお話しの鳥籠にいた名もない鳥だったのだと思った

 

譜奏282

2018年10月5日

今日も額縁屋の角隅に置かれたままの

私が初めて見かけた時から何年も売れないままの

なぐり描きされたような樺のリトグラフを

私は立ち止まって少し近づいて見ていた

私にとって変化の連続だったこの数年が

時の点座のように白線に遊んで重なっていってしまう

絵にはこういう不思議な力があることを

私は行きずりに感じて近づかなかったのかもしれない

すでに私は立ち止まってしまった自分を後悔していた

喧騒を透過した風音に紛れて

あなたに真実を告げる人は誰もが目を背ける乞食のような

みすぼらしい姿でいつかあなたの前に現れると

突風がからかうように

私に言った気がしたからだ

 

譜奏281