2017年12月13日

形有る美しいもの

形を持たない美しいもの

それはやがて醜くなっていくから愛せないと

あれはジャズだったかシャンソンだったか

そんな歌詞があった

私はそれはひどい決め付けだと思って

その曲を嫌った

何故醜くなっていくと断定できるのかと思った後

私は歌というのはこういう設定でドラマチックにしていくのだと

冷たい気分で決め付け返しをしてあげて

記憶と共にその歌を棄てた

それが切なく悲しい願いだと気がついたのは

私が素朴な哀しみの重さを知った

長い年月を経た美しい月の夜のことだった

 

譜奏153

2017年12月11日

どこかの国の内戦で亡くなった少女に

追悼の絵を描いたのは難病の少女だった

その少女は全身が動かせず瞬きと口で絵を描いたという

夏の最後の向日葵をもらう機会があって

私は大きめの花瓶を取り出して部屋に飾っていた

人に現われる不幸の形は多彩で幸福は形無く限定されている

向日葵の大ぶりの葉を見ながら私はそんなことを頭に浮かべて

名も知らぬ二人の少女の顔を想像していた

慈しむ

この得体の知れない感情に根は不要なのかもしれない

もうすぐ開き切りそうな黄の葉が

自身とのせめぎ合いに疲れているだけの私を叱ってくれるように

一葉を床に落とす幻を今にも演じそうで

私は鼓動の合間のように泣くばかりだった

 

譜奏152

2017年12月8日

季節を感じても感じなくても

時がデリカシーもなく一年を剥がしていっても

暮らしが変わっても

私には忘れ得ぬことがありそれを口にしたことはない

解ってもらえないと思っていた

それは今も続き

解ってもらいたいと思う欲望も一度として持たず

だからすべてが風化せずに時を食べているだけだった

風化の反対語は何と言うのだろう

何事もない平坦な日の普通の時間に

忘れ得ぬ記憶はかけがえのない出来事として鼓動し

初めての季節を肌に感じるように

その時私はときめいて

胸をかばうように手を当てて

私は路の傍らに逃げ込んで静かに目を塞いでいた

 

譜奏151

2017年12月6日

形容という不可思議

おそらくは人間にしかない

使う側の精神の幻像が最も露わになる短編

その形容の詞

それは何故かひっそりと人と人との間に寄り添って

事の主語に連座するものになっている

私の中でも時に言葉になり

しかし

そのほとんどが死んでいくだけの

種子の詞

ある夜に私は罪を祈るために探した形容に疲れ果て

俯瞰した後に失笑した

何故か私の種子は発芽しない

おそらくサマになるように生きようなどと企んだせいだ

私の主観に幻像は不要ということなのかもしれない

 

譜奏150