毎朝
生まれ変わると信じていた
少女の私
自分を風のように思い
宙のように感じ
月を映す海のように振る舞っていた
過去も未来もなだらかな紫色のトーンで護られ
現在はその途中の白色のコマ送りに過ぎないと
私は私自身が遺伝子そのものであるかのように
ただその力を受けて経脈の流れに身を委ねていた
しかし宿命の前夜を知る血のプログラムは
緩やかに私の白色に侵食していく
約束されていた遺伝子そのものが
制御不能な獣に変異していくように
譜奏100
毎朝
生まれ変わると信じていた
少女の私
自分を風のように思い
宙のように感じ
月を映す海のように振る舞っていた
過去も未来もなだらかな紫色のトーンで護られ
現在はその途中の白色のコマ送りに過ぎないと
私は私自身が遺伝子そのものであるかのように
ただその力を受けて経脈の流れに身を委ねていた
しかし宿命の前夜を知る血のプログラムは
緩やかに私の白色に侵食していく
約束されていた遺伝子そのものが
制御不能な獣に変異していくように
譜奏100
魂を抱くように胸に手を添えて目覚めた朝
冷えた手の白さに
熱を奪っていった何者かの気配が宿っていた
何度繰り返しても
この身体という主体を亡くした後の私自身が思い浮かばない
それは問いというほどの確かさもなく
進めないまま退がれないまま
私の足元に地雷のように張り付いているだけだった
性悪だ
生まれてきて
一生懸命に生きようとして出会う問いには
刃を握った傷みしか返ってこない
胸を庇う手の熱はきっとその戦いで
術なく廃色していくのだ
譜奏99
シェリー酒が恋の駆け引きに使われるようになったのは
その夜の結論を急ぐ娼婦の仕業だったのか
火遊びを飾りたいおとぎ話への畏敬だったのか
どちらにしても世界に流行していったのは
恋の一面に必要なツボを心得ていたということだろう
シェリードランカー
哀しいまでの恋の性
ひたむきな欲望をあるがままに感じさせ
破滅的な末路を想像させるこの言葉を
多くの女性は刹那の中で認めた
半身の背の私は悪戯な罪を投げ込むように
ローズオイルにハチミツを入れてソーダを注ぐ音に笑む
私のシェリーは
サティのグノシエンヌには似合わないはずだから
譜奏98
この部屋の秒針の音が
どこかの砂漠の砂を揺らして蒼い陰を創る夜は
砂粒がデジタル音のようにキュッと鳴いて
私の部屋の四隅に還って眠らない
一秒は二秒を追い
逡巡するように三秒は一秒を確かめる
無機と思えるモノほど
複数形としての存在を保つのは何故だろう
静寂は受け身に見えて私には最も騒がしく
際限なく受け入れる脅えを私に与え
夜毎悩ましいほどにその手を広げている
まるで愛する者の旅の終わりを待って
その蒼い翳りを背に
寡黙に抱きしめるかのように
譜奏97