2017年8月11日

毎朝

生まれ変わると信じていた

少女の私

自分を風のように思い

宙のように感じ

月を映す海のように振る舞っていた

過去も未来もなだらかな紫色のトーンで護られ

現在はその途中の白色のコマ送りに過ぎないと

私は私自身が遺伝子そのものであるかのように

ただその力を受けて経脈の流れに身を委ねていた

しかし宿命の前夜を知る血のプログラムは

緩やかに私の白色に侵食していく

約束されていた遺伝子そのものが

制御不能な獣に変異していくように

 

譜奏100

2017年8月9日

魂を抱くように胸に手を添えて目覚めた朝

冷えた手の白さに

熱を奪っていった何者かの気配が宿っていた

何度繰り返しても

この身体という主体を亡くした後の私自身が思い浮かばない

それは問いというほどの確かさもなく

進めないまま退がれないまま

私の足元に地雷のように張り付いているだけだった

性悪だ

生まれてきて

一生懸命に生きようとして出会う問いには

刃を握った傷みしか返ってこない

胸を庇う手の熱はきっとその戦いで

術なく廃色していくのだ

 

譜奏99

2017年8月7日

シェリー酒が恋の駆け引きに使われるようになったのは

その夜の結論を急ぐ娼婦の仕業だったのか

火遊びを飾りたいおとぎ話への畏敬だったのか

どちらにしても世界に流行していったのは

恋の一面に必要なツボを心得ていたということだろう

シェリードランカー

哀しいまでの恋の性

ひたむきな欲望をあるがままに感じさせ

破滅的な末路を想像させるこの言葉を

多くの女性は刹那の中で認めた

半身の背の私は悪戯な罪を投げ込むように

ローズオイルにハチミツを入れてソーダを注ぐ音に笑む

私のシェリーは

サティのグノシエンヌには似合わないはずだから

 

譜奏98

2017年8月4日

この部屋の秒針の音が

どこかの砂漠の砂を揺らして蒼い陰を創る夜は

砂粒がデジタル音のようにキュッと鳴いて

私の部屋の四隅に還って眠らない

一秒は二秒を追い

逡巡するように三秒は一秒を確かめる

無機と思えるモノほど

複数形としての存在を保つのは何故だろう

静寂は受け身に見えて私には最も騒がしく

際限なく受け入れる脅えを私に与え

夜毎悩ましいほどにその手を広げている

まるで愛する者の旅の終わりを待って

その蒼い翳りを背に

寡黙に抱きしめるかのように

 

譜奏97