2017年7月12日

命に限りがあることを人は知っている

しかし多くの人はそれを口にせず

懸命に生きることに目を向けて希望を探すように生きていく

または人生は楽しんで生きるものだと言い頷く

死の恐怖に目を塞ぐように

そしてそう生きることを肯定し合い

責める人は誰もいない

その恐怖に侵されまいとするように

素朴に私の実感はその中には無さそうだ

そもそも死への考え方に正誤などないだろうと感じている

ただ死は正すだろうと思う

陰を寄せて

時が尽きるまでの仮の時間のフレーズを

置き去ってきた私自身の鼓動のリズムそのものを

 

譜奏87

2017年7月10日

考えて

よく考えて生きていくように

教えられてきた

もう一つ

正しいか間違っているかだけが

判断の定規だと

促されてきた

衝動は危険

激情は後悔

何よりも安心なエリアを離れてはいけないと

最後の息を吐き出す時

人は胸の灯りを追うだろう

その光点の地はきっと

自分だけが知るというのに

 

譜奏86

2017年7月7日

大切にしたい何かをはっきり感じた時

怯える胸に私は手を押し付けた

曖昧さを無くすということは強制的に

確かな覚悟を強制されるという

暗黙のメカニズムが作動する

その実務的な態度の容赦の無さは感じていて面白かった

しかししばらくそうしていると

不思議に怯えがリズムを失って

平安な凪が予め決められていたかのように

私の海に横一線の海平線を引いた

一人の深夜に私は私に手を叩いていた

長く痣のように付き合ってきた私の怯えは

単に女の持つ遺伝子の

悪癖に過ぎないと知ったからだ

 

譜奏85

2017年7月5日

怯えるように顔を出した桜が

幾つかの花びらに分かれて

風を柔らかくしている坂道を

黄色い帽子を乗せた子供たちが横切っていく

花にも負けないほどに煌めいて

思えば私は滑稽なほど

親の愛を受けて育てられた子供だった

ワガママな思い出の数々が

父や母の切ない愛に繋げられていく

例年になく寒暖の激しい今年の桜はきっと

早々と吹雪いてしまうだろう

その花雪の中で私は幼い子のように言葉を落とす

悲しみは

生きることによって意味を持つのだと

 

譜奏84