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十字架に絡みつくアイビィのように
私の自覚していない欲望の形が
意味もなく整った構図になって
浴びた陽の葉先になって伸びていく
何故気がついた時には
私はいつも砂浜を歩いているのと聞いたのに
淡い色に同化していくのは一つの死と言えるから
悲しんでもいいよと海が言った気がしたあと
それは言葉にできることなの?と
私は言い返したかったけれど
自制するように海風が吹いてきたので
私はただされるがままに立ち竦んでいるしかなかった
構図の中で意識を持たない私こそが
最後のデッサンなのだと知ったからだ
譜奏91
量子が遊ぶ点描のように
雨上がりのアスファルトの背に密やかに
淡く注ぐ落ちし煌き
月光色
私が確かにここに立っていることを認め
その本質へ向かおうと願うことを知る
仄かなだけの光
仮装とも言えず
本質とも言えず
そのどちらでさえ
どちらでもないと言えず私は
ただ光をなぞる
今はそれでいいと言葉になりそうな息を
月に殺して
譜奏90
私は同じ夢を見る
何度も同じ夢の中に入っていく
意識の端切れのような夢は
終わったかと思ったら
またその場面から続いて
私は裸足で砂の道を歩いていたりする
ある時私は気がついた
夢の中では私は私を見ているということに
色彩のない二人の私は
透明なスクリーンに遮られて断絶されていた
乾いた風に髪を揺らしている映像の中の私の空に
見覚えのある星が見えた
その位置で南だと分かった私は何故か怯え
もう二度と彼女を見ることはないと感じていた
譜奏89
風に剥がされた葉が
私の時間に落ちた時から
漂い始めた蒼い水蒸気のような霧は
やがて一つの形に安定して
私の衝動の洞へと向かい
微小な水玉の群れになって
その冷気で
私自身さえ気がつかなかった
私の熱の白い膜を解いていた
合理を伴えないまま隷属して
憑かれるように足掻く私を
ありきたりな必然を傍観するように予見して
いつからか私の霧は赤みを帯びる
私自身がその蒼に寄生していくために
譜奏88